2015自衛隊観艦式 ~本番日・隊列制形編

「事前公開2」から3日後の10月18日、安倍首相を観閲官として2015自衛隊観艦式が挙行されました。
旗艦「あたご」から見た受閲艦艇部隊の隊列制形の模様と米空母のサプライズ参加をお伝えします。


10月18日、本日は「2015自衛隊観艦式」の本番日です。
本番日の乗艦・撮影ができるという幸運に浴した私は、午前6時過ぎに横須賀にやって来ました。ただ今回私がいるのは、同じ横須賀でも6日前と3日前に乗艦した船越ではなく吉倉です。そう、観艦式本番はここ吉倉から出港する艦に乗って取材・撮影を行うのです。

到着した時刻は6日前(事前公開1)・3日前(事前公開2)とほぼ同じですが、吉倉から出港する艦は出港時刻が船越組よりやや遅いということもあり、開門待ちの列もそれほど長くはありません。ざっと見た感じでは、100人程度といったところでしょうか。
前方に見える「観艦式歓迎門」をくぐって少し行った所に手荷物検査場があり、そこからさらに総監部の敷地内を300~400m歩いた先に、本日私が乗る艦が停泊する吉倉桟橋があります。

手荷物検査を済ませ、はやる気持ちに背中を押されながら吉倉桟橋へ。そこには“ある護衛艦”が私の到着を待ってくれていました。
「ようこそ。私とはご縁がありますねぇ♪」と、その艦は私に語りかけているようでした。受閲艦艇部隊旗艦「あたご」です。

苦難の時期と謹慎生活を経て今回めでたく受閲部隊旗艦という大役を務める「あたご」ですが、その苦難の時期からずっと「あたご」を応援してきた私が“晴れの日”に乗艦するというのは、まさに運命というか神様の粋な心遣いとさえ思えます。
思い返せば6年前の2009年観艦式に、周囲から冷たい視線を浴びながらも、『頑張れ!あたご』の想いを込めて「あたご」の部隊帽を被って参加しました。その時には僅か6年後にこのような日が来るなんて思ってもみませんでした。「あたご」、おめでとう!

乗艦してすぐ、潜水艦が出港しているのが見えました。受閲部隊第4群3番艦を務める「うずしお」です。1番艦を務める「ずいりゅう」、2番艦を務める「こくりゅう」は一足先に出港したものと思われます。
水上艦とは異なり、潜水艦の出港には艦長による「出港用意!」の号令はあっても、出港ラッパの吹奏はありません。静かに淡々と出港していきます。その姿は、主人から密命を伝達されて静かに姿を消す忍者のようです。そう、潜水艦は“海の忍者”なのです。

「うずしお」の背後に見える施設は米海軍横須賀基地です。帝国海軍横須賀鎮守府と横須賀軍港の殆どの敷地・施設は、現在米海軍の基地となっています。一方で、横須賀在籍の潜水艦が停泊する岸壁と、潜水艦を統べる第2潜水隊群司令部の庁舎は、この米海軍基地の敷地内に間借りするような形で存在しています。
私は「あたご」の後甲板右舷最後部に陣取ります。ここからだと「あたご」に後続する艦や、受閲部隊が隊列を制形する様子が手に取るように見えるはずです。いい撮影が期待できそう…♪

私は当初、本番日の乗艦券を入手できませんでした。本番日は横浜で「いずも」の出入港を撮影しようかと考えていたのですが、HPを通じて交流があるI元将補のご尽力によって、急きょ本日の乗艦が実現しました。しかもI元将補は、隊列を前方から撮影できるようにというご配慮で、この「あたご」の乗艦券を手配してくださったのです。出港を前に、I元将補に心から御礼申し上げます。
I将補は防大18期生で、「むらくも」艦長第5護衛隊司令横須賀総監部防衛部長海上訓練指導隊群司令等を歴任し、2006年に退官しました。私は在職中からお名前を存じあげておりました。

逸見の岸壁には2隻の海外艦が接岸しています。「あたご」に近い場所にいるのがインド海軍のフリゲート艦「サヒャディ」です。2012年に就役したインド海軍の最新鋭フリゲートで、昨今の艦船スタイルのトレンドに乗ったステルス設計となっています。

私の隣に陣取っている高齢の男性二人組のうちの一人が、この「サヒャディ」のことを、「あれが最新型の護衛艦『てるづき』だ!」とお仲間に説明していました
(驚) あの…「てるづき」どころか海自艦ですらないのですけど…。目が点になるとはこのことです。
ここ数年、イベント等でお仲間に海自や艦船に関する知識を披露している人によく遭遇するのですが、残念ながら間違った知識や誤解をお持ちの方も多いようです。海自・艦船に関する知識を持っていることが格好いいとされる時代になったということでしょうか?

午前7時、吉倉に停泊する海自艦艇よりも先に逸見にいる2隻の海外艦が出港します。まず最初はフランス海軍のフリゲート艦「ヴァンデミエール」が出て行きます。船体の塗装が白い!3日前の事前公開2で姿は見ていますが、間近で見るとその白さが際立ちます。さしずめ“色白のパリジェンヌ”といったところでしょうか。

そんなパリジェンヌも、残念ながら後部構造物に錆が浮き出ています。「艦に恥をかかせるな」という諺のもと、式典や広報行事など人前に艦を出すときには徹底して船体を塗装し直し、ネジ一本まで磨き上げる海自では、このような事は考えられません。仏海軍をディスる訳ではないのですが、構造物に浮き出た錆に、「艦の士気が今ひとつなのでは…」と感じざるをえません。
この20分後、先ほどの「てるづき」もとい「サヒャディ」も出港しました。

午前8時5分、マストに護衛艦隊司令官の海将旗を掲げた「あたご」は、「むらさめ」「きりしま」らが見守るなか出港します。
「むらさめ」の艦橋露天部には第1護衛隊司令と隊付がいます。この1護隊司令・中筋1佐を指揮官にして「むらさめ」と「いかづち」が、今年3月に第21次派遣海賊対処行動水上部隊としてソマリア沖・アデン湾に派遣されました。任務を終え帰国したのが8月30日で、両艦は休暇もそこそこに、帰国から1ヶ月余りで観艦式に参加したことになります。21次隊の2隻が、今観艦式でそれぞれ先導艦祝賀部隊先導艦という先導役を担当しているのが面白いです。

こうして見ると、「きりしま」の艦橋構造物の高さがよく分かります。見晴らしもいいとあって、艦橋ウイングはカメラを手にした乗艦者で大賑わい。転落者が出ないかと心配になる程の混雑ぶりです。

「あたご」はゆっくりと吉倉から離れていきます。後甲板で舫作業にあたっていた乗組員は、艦が湾外に出るまで整列して他艦の見送りを受けます。翻る自衛艦旗に整列する乗組員、桟橋に停泊する艦艇…とても“海軍らしい風景”を捉えた一枚となりました。

甲板上に置かれたパイプ椅子は見学者用のものですが、艦の動揺で動いたり倒れたりしないように紐で木材にくくり付けて固定しています。またヘリコプターを移動させるための軌条と固定用のタイダウン・ホールにはすべて蓋が被せられるなど、乗艦者の事故防止対策を徹底して施しています。まさに安全第一です!
昨今はイベント会場で来場者がケガをすると主催者に猛烈なクレームが寄せられ、場合によっては賠償すら要求されますから仕方ないのですが、乗組員にとっては大変な労力がかかる作業でしょう。

「あたご」とほぼ同じタイミングで「おおなみ」も出港しました。「おおなみ」は「あたご」と同じ受閲部隊の艦ですが、まさか同じタイミングで出港するとは思っていなかったので、至近距離を航行する姿に少々驚くとともに、絶好の撮影ポジションに胸を躍らせました。
艦首に記された艦番号「111」が特徴的ですが、現在就役中の海自艦の中では唯一のゾロ目の艦番号を負う艦となっています。かつては「ちくご」型DE8番艦「てしお」(2000年退役)が「222」、また先代の「おおなみ」(1990年退役)が「111」を背負っていました。

「おおなみ」の後方に観閲艦「くらま」の姿が見えます。「くらま」はこの吉倉で防衛大臣政府要人・海幕長らを乗せます。上空は曇り空ではありますが荒天というほどではないので、内閣総理大臣(観閲官)は予定どおり輸送ヘリにて乗艦すると思われます。

吉倉出港から約30分後、1隻の「むらさめ」型DDが合流しました。艦番号「104」、「きりさめ」です。「きりさめ」も横須賀を出港したのですが、吉倉でも船越でもなく、民間港の横須賀新港を出港しました。毎回観艦式で使用される横須賀新港ですが、今回は「きりさめ」「さみだれ」「しまかぜ」という遠征組3隻が拠点としています。

予報は「晴れ」にも関わらず、天気が良くありません。上空は分厚い雲に覆われ、加えて海上には霧がかかっており艦艇撮影には最悪の気象条件です。前々回(2009年)、前回(2012年)同様に本番日は悪天候となってしまうのでしょうか…。前回・前々回とも強い風雨と低温、波浪による動揺によって乗っていた艦が“難民船”と化したのですが、この天気を目の当たりにして過去2回の悪夢が頭の中を駆け巡りました。“難民船”化はマジで勘弁して欲しいです…。

さらに約10分後、「むらさめ」型DDがもう1隻加わりました。「きりさめ」と同じく横須賀新港を出港した「さみだれ」です。
現在航行中の東京湾には、僅かではありますが霧雨が降っています。霧雨の降る海上を航行する「きりさめ」とは風流がありますが、霧雨によって艦が美しく撮れないとなると、風流とか言っている場合ではありません。何とか天候が回復してくれないかなぁ…。

撮影を阻むのは天候だけではありません。私のすぐ横にオカマのおっさんがいて、出港前からスマホを手にして一人でブツブツ喋り続けているのです。おっさん特有のダミ声でおねぇ口調、しかもかなりの大声なので不快極まりなく、なかなか撮影に集中できません。
見るところ、スマホを使って乗艦レポートを配信しているようです。ついにオカマが観艦式に来る時代になってしまいました…

オカマが観艦式に来るとは、海自ブームもここに極まれりといった感がありますが、よく考えると気になることがあります。
私がI元将補のご配慮によって乗艦できたことから分かるように、この「あたご」は一部を除いて防衛省・海自関係者からの招待客が大半であると推測できます。ということは、このオカマのおっさんも招待客である可能性が高く、防衛省・海自関係者が乗艦券を渡したということになります。つまりそれは、防衛省・海自関係者の中にこのオカマのおっさんが勤めるオカマBarの常連がいるということになります
(苦笑) おいおい、大丈夫か…(汗)

私の心配をよそに艦隊は一列になって浦賀水道を航行します。「さみだれ」の後方には「ぶんご」がいます。ちょうど「事前公開1~出港編」の17枚目の画像を逆方向(前方)から見た構図になります。

観艦式本番当日だからか、はたまた日曜日だからか、きょうは東京湾内・浦賀水道ともに小型船舶がたびたび接近してきます
このヨットはノロノロと隊列に接近し、「あたご」通過後に「あたご」の真後ろに入り込みました。しかも、そのまま通過するのではなく、写真を撮影しようと停止したために、後続する「おおなみ」はヨットを避けるために正規の航路を外れることを余儀なくされました

この少し前にもクルーザーが「おおなみ」の直前を横切っており、改めて小型船舶のマナーの悪さを思い知らされました。「事前航海1編」でもお伝えしましたが、ここ浦賀水道航路では、どのような位置関係にあろうとも小型船が大型船を避ける義務があり、海上衝突予防法の規定は適用されません。にも関わらずこの現実、できることなら「あたご」の対艦ミサイルで沈めてやりたいです。

空を覆う分厚い雲、オカマのおっさん、抜け抜けと艦隊に近づいて来る小型船舶などムカつく要素満載で、観艦式本番の航海序盤は私にとっては気分の悪い航海となってしまいました。そんな私の気分を晴らすかのように、「あたご」が一気に増速しました。どうやら浦賀水道航路を抜けたようです。すると左舷側に艦艇の姿が…ミサイル護衛艦「しまかぜ」です。「しまかぜ」は横須賀新港を出港後に「あたご」よりも一足先に浦賀水道航路を通過し、この場所で「あたご」の到着を待っていたのです。

やや逆光なのでシルエット状になっていますが、非ステルス艦が醸し出す軍艦らしい武骨な雰囲気が満載の素敵なお姿です。艦齢が25年を超えた非ステルス・非イージスのDDGですが、最新鋭艦にはない力強さを再認識し、「はたかぜ」型DDGに惚れ直しました

増速して「しまかぜ」を追い抜くと、同じく左舷側に今度はDDH「いずも」が姿を現しました。「いずも」は横浜を出港、「しまかぜ」同様に「あたご」よりも先に浦賀水道航路を抜け、「あたご」の到着を待っていたのです。「しまかぜ」「いずも」という魅力的な艦の相次ぐ出現に、先ほどまでの憂鬱な気分はあっという間に吹き飛んでしまいました。「よし!やるぞ!」。カメラを持つ手にも力が入ります。

事前公開では飛行甲板上に乗艦者を乗せていた「いずも」ですが、本番日のきょうは甲板上に乗艦者の姿が見えません。乗艦者を乗せるのは事前公開だけだったのでしょうか?「いずも」を見てボルテージが上がったのは私だけでなく、オカマのおっさんも同じようで、例のダミ声で「見て!空母よ、空母。あ~ん、す・て・き♡」とか言っています。もう死んで欲しいです

「いずも」を追い抜いた頃から、急に周囲が明るくなり天候が回復してきました。おぉ、上空には青空が見えるではありませんか!
普通、空が曇りから晴れになる場合は、雲が徐々に薄くなったり、雲の数が減って晴れの空になるのですが、きょうはまるで線を引いたように、ある地点を過ぎると一気に晴れになるといった変化です。空を見ても、まるで何かに区切られているかのように、晴れと曇りの境界線が出来ています。何という天候、そして何という奇跡!

ちなみにこの光景、「事前公開1~出港編」の21枚目の画像部分に相当します。「いずも」を追い抜いたことで、旗艦「あたご」は隊列の先頭に出ました。これから「しまかぜ」をはじめとする2番艦以降の艦が、順次観閲の順番どおりに隊列を作っていくことになります。事前公開の経験を糧に最高の隊列を制形して欲しいものです。

「あたご」の後を追うために増速した「しまかぜ」が、「いずも」を追い抜きます。「しまかぜ」は受閲部隊2番艦であり、このあと観閲を受けるまで「あたご」の直後を航行することになります。

「しまかぜ」のマスト頂部に装備されている四角いレーダーが目を引きますが、これはSPS-52C三次元レーダーです。米国・ヒューズ社製で、海自では「たちかぜ」型DDG「はたかぜ」型DDGに装備されましたが、「たちかぜ」型の全艦退役により、装備艦はこの「しまかぜ」と「はたかぜ」の2隻のみとなってしまいました。
SPS-52Cや艦首部にあるミサイル発射機、艦橋上部に設置された射撃指揮装置、艦橋構造物の形状などが、かつて米海軍に存在した「カリフォルニア」級原子力ミサイル巡洋艦とよく似ています。時代遅れのデザインが、逆に今は強い個性となって輝いています。

「おおなみ」「きりさめ」「さみだれ」の3隻も「いずも」を追い抜きます。浦賀水道を抜けてすぐの相模湾で繰り広げられる艦隊運動、観閲部隊・付属部隊の艦にはない見どころがあります。
海上にかかっていた霧も晴れて、遠方の陸地も見えるようになりました。後方の陸地は房総半島ですが、随分と変わった形の山が見えます。この山は富津市にある鋸山で、鋸の歯のような形をしているから、そう呼ばれるようになりました。昭和初期まで石材が産出されており、横須賀軍港の港湾設備にも鋸山産の石材が使用されていたとのこと。実は海軍に縁がある山だったのですねぇ。

「おおなみ」の艦橋露天部に白い柵が設置されていますが、「くらま」が式に参加できない場合は「おおなみ」が観閲艦の代役を務めることになっており、それに備えて観閲台が設置されています。

「おおなみ」「きりさめ」「さみだれ」を先行させた「いずも」は、「さみだれ」に後続します。これで旗艦・受閲第1群~3群までの艦艇が、観閲を受ける順番どおりに並んだことになります。そしてこれから、先行して隊列を整えている第4群の潜水艦、第5群の掃海艦・掃海艇が待つ海域へと急ぎ向かいます。

外海に出たということもあり、急に風が強くなり、うねりも出てきました。帽子はあご紐を掛けていないと飛ばされそうなほど、また脚に力を入れて踏ん張っていないと艦の揺れでコケてしまいそうです。実際、私は艦が大きく揺れた際にコケてしまったのですが、見知らぬ乗艦者の方が私の腕を引っ張って起こしてくれました。どなたかは存じ上げませんが、本当にありがとうございました。艦は時折、予想外に大きく揺れるので、特に撮影中は注意が必要です。

艦の航行する順番が観閲順となったので、次は航行しながら隊列を整えていきます。旗艦「あたご」を基準にして、隊列が一本の線となるように各艦が先行する艦の直後に自艦を持っていきます。と同時に、先行艦との間隔も整えます。各艦の間隔ですが、旗艦「あたご」と「しまかぜ」(第1群)の間隔は700ヤード、群内各艦の間隔は500ヤード、群と群の間は700ヤードと定められています。

「いずも」の後ろには「ぶんご」が続いています。この場面は、「事前公開1~出港編」の25・26枚目の画像を逆方向から見た光景になります。6隻による美しい一直線の単縦陣は、これまで縷々ご説明してきた過程を経て形づくられていたのです。そして、その隊列制形は、高い練度と技量がなければ不可能であることは言うまでもありません。私はそこに、海自の精強さを垣間見た思いがしました。

約30分後、左舷側に行き脚を止めている掃海艇の姿が現れました。「つしま」「はちじょう」「ひらしま」「たかしま」「みやじま」の5隻は午前7時頃に相次いで船越を出港、この海域にて隊列を作って第5群の先頭艦である掃海母艦「ぶんご」を待っていたのです。
5隻の掃海艦艇は「ぶんご」と合流したのちに、旗艦「あたご」を先頭に形成されている単縦陣の隊列に合流します。

モロに逆光なので「たかしま」の姿がシルエット状になってしまっていますが、これはこれでいい雰囲気です。観艦式では南方向にカメラを向けると、ちょっとやそっとではない強烈な逆光となってしまいますが、画像が意外にいい雰囲気になるのと、シルエット状になることで特徴的な艦容がよく顕れるので、腕前次第では良い作品になることが分かりました。逆光も悪いことばかりではありません。

さらに進むと、同じく左舷側に潜水艦が現れました。「あたご」乗艦直後に出港の様子が見えた「うずしお」をはじめ、「ずいりゅう」「けんりゅう」の3隻が、先ほどの掃海艦艇と同様に、この地点で隊列を作って旗艦「あたご」以下6隻の到着を待っていたのです。
3隻は「ずいりゅう」「こくりゅう」「うずしお」の順で航行しており、「いずも」通過後に変針して隊列に合流、受閲第4群となります。

セイル上に艦長航海長の姿が見えます。水上艦の航海長は若手幹部の配置で、分隊(第2分隊)においては分隊長(船務長)の部下という扱いになりますが、潜水艦の航海長は艦のナンバー2で、大抵の場合、副長が兼務しています。潜水艦は水上艦に比べて操艦が難しいのと、特に潜航時には三次元運動が求められることから次期艦長候補の幹部が副長兼航海長に充てられます。

潜水艦と掃海艦艇は、ご覧のように二本の隊列を形成しています。その右舷側横を「あたご」を先頭とする隊列が駆け抜けており、現時点では三本の隊列が平行して存在していることになります。そして間もなく、この三つの隊列が合流して美しい単縦陣となるのです。
このように、受閲第4群の潜水艦と第5群の掃海艦艇は、「あたご」出港直後に1隻づつ合流した「きりさめ」などとは異なり、反転地点近くにまで先行して、そこで予め群の隊列を制形し、旗艦「あたご」と第1~第3群の隊列が到着後に群単位で合流するのです。

ちょうど今、掃海艦艇の隊列に「ぶんご」が合流しています。このあと隊列の先頭に位置し、第5群を率います。「事前公開1~式典編」の3~5枚目の画像のシーンに相当します。今日も小さな掃海艦艇たちは「ぶんご」に後続すべく、懸命の航海を繰り広げるのでしょう。

掃海艦艇と潜水艦が次々と現れるので、視線がずっと左舷側に釘づけとなっていたのですが、ふと右舷側を見ると航行する「おおよど」の姿が見えました。「事前公開2」のレポでも紹介しましたが、「おおよど」は海面警戒部隊の一員で、観艦式実施海域に民間船舶が誤って進入ないよう警戒するとともに、大型の浮遊物を発見した際にはこれを回収することが任務となっています。

マストに司令旗が揚がっていますが、「おおよど」には部隊指揮官である第2護衛隊司令・柏原1佐が座乗しています。「おおよど」が率いる海面警戒部隊は8隻で、面子は掃海艇「ちちじま」「はつしま」「つのしま」「まえじま」海洋観測艦「わかさ」多用途支援艦「えんしゅう」特務艇「はしだて」輸送艇2号となっています。影から観艦式を支える各艦に、心から敬意を表したいと思います。

いよいよ第4群の潜水艦3隻第5群の掃海艦艇6隻が「あたご」を先頭に航行する第1~3群の隊列に合流します。
西に向かって航行していた潜水艦と掃海艦艇は“右向け右”をするかのように艦首を斜め右方向に向け、第1~3群の隊列に向かって突き進みます。「事前公開1~式典編」における6枚目の画像が、この場面に相当します。旗艦からだとこんな風に見えるのですね。

美し制形された1~3群の隊列、その隊列の方向に艦首を向けて突進してくる潜水艦と掃海艦艇…艦艇がよく訓練されたドリル演技のように美しく、そしてキビキビと動きます。操艦者の意図どおりに動く艦艇たちに、類まれなる操艦技量を覗い知りました
これほどの練度と技量を持つ”海軍”と事を構えるのは愚かだ―そう思える光景です。“中華な大国”よ、この景色を括目して見よ!

午前11時15分、「あたご」は反転地点に達しました。面舵一杯!西に向かって航行していた受閲部隊はここで反転、東に向けて航行します。そして約45分後に観閲部隊・同付属部隊と対向し、内閣総理大臣による観閲を受けるのです。
3年前の観艦式では、この受閲部隊の大反転時に海上は濃い霧に包まれていて後続する艦艇の姿がほとんど見えずに悔しい思いをしたのですが、今回は水平線の彼方にまで一直線に続く受閲部隊所属艦の姿を美しく捉えることができました。やったぁ!

もちろん、この光景は隊列の先頭を航行する旗艦「あたご」に乗っているからこそ撮影できるのであり、「あたご」の乗艦券をご用意してくれたI元将補のご配慮がとても有難く、心に沁みました。これで隣にオカマのおっさんがいなければ最高なのですが…
(苦笑)

「いずも」の後方では第4群の潜水艦が今まさに合流を完了させようとしています。さらにその後方には合流すべく突き進む第5群の掃海艦艇の姿も見えます。ちょうど「事前公開1~式典編」の7枚目の画像を逆方向(旗艦)から見た光景になります。

「いずも」の飛行甲板には5機の対潜ヘリが駐機されています。初参加にして大注目の目玉艦ですので、その能力の一端を披露するためにも、5機の対潜ヘリの一斉発艦を展示すべきではないでしょうか?ブルーインパルスを呼ぶよりも、国民に見せるべき航空部隊がここにあるではないか…そう思わずにはいられません。遠くから見ると「ひゅうが」型DDHによく似ている「いずも」ですが、この角度から見ると、右舷後部に設けられたデッキサイド式エレベーターによって「いずも」型特有のシルエットを堪能できます。

その頃、旗艦「あたご」の直後を後続する「しまかぜ」は回頭を終えて「あたご」の直後に占位、続く「おおなみ」も間もなく回頭を終えようとしています。回頭時の遠心力と波浪によって、「おおなみ」が大きく傾いているのが分かります。乗艦しているとあまり感じないのですが、転舵時や回頭時の艦艇は意外に大きく傾いています

受閲部隊はやがて正面から現れるであろう観閲部隊・同付属部隊に向かって速力10ノットで航行します。回頭を終えて後続する「しまかぜ」からは観艦式を直前にした緊迫感すら感じます。例えるなら、剣士が刀を鞘から抜いて構えに入っているような雰囲気です。
近年で大規模だった2000年観艦式では「はたかぜ」「しまかぜ」「さわかぜ」「くらま」の4隻で祝砲を撃ちましたが、今回は「しまかぜ」のみ。乗組員の緊張とプレッシャーは相当なものだと思われます。

「おおなみ」が回頭を終え、これから「しまかぜ」の後方500ヤードの位置に艦を持っていきます。条件が良ければ右方向に富士山が見えるはずなのですが、本日は晴天ではあるものの空中にモヤがかかっており、富士山は姿を見せることはありませんでした…

波浪によって「しまかぜ」の艦首が大きく持ち上げられ、艦底の朱色の塗装まで見えています。まさに「波濤を超えて」という表現がぴったりの光景です。観艦式本番日の相模湾がいかに波が高かったかがお分かりいただけると思います。
三半規管に堪えました…。
海自艦の塗装ですが、模型製作の分野で「海自グレー」と呼ばれる濃いネズミ色を纏っていますが、喫水線部分は、喫水線下~艦底部分には朱色が塗られています。一方、掃海艇や支援艦艇の一部には喫水線部分から朱色となっている艦があります。

事前公開1では500ヤードの間隔を保てずに「しまかぜ」に接近し過ぎてしまった「おおなみ」ですが、本番日のきょうはピタリと「しまかぜ」の後方500ヤードの位置に占位しました。事前公開1の後に実施された反省会や図上演習で得た教訓を見事に生かしました。
「おおなみ」に続いて「きりさめ」「さみだれ」が反転を終え、そしていま、「いずも」が反転を終え一直線の隊列に加わろうとしています。

変針点到達→回頭→回頭終了→先行艦から500(または700)ヤードの定位置に占位という一連の艦の運動は、まるで艦が生きているようだと言っても過言ではありません。まさに、鍛錬された乗組員が艦に生命を吹き込んでいることを実感させられる光景です。
正式には観艦式はまだ始まっていないのですが、私はこの受閲部隊の大反転が観艦式最大の見どころだと考えています。

各艦が反転を終えるのを見て「いよいよ観閲が始まるぞ!」と心を躍らせていた午前11時31分、驚愕の艦内放送が流れました。
「護衛艦『てるづき』に先導されて、アメリカ海軍の空母『ロナルド・レーガン』が艦隊の右舷側を航行しています」

「レ、レーガンだと…!!」。驚いて右舷側を見ると、確かに「てるづき」と「R・レーガン」の姿が…何だ!このサプライズわぁ!!
「R・レーガン」は韓国海軍の観艦式に参加するために釜山に向かっていたはず。途中で引き返して、観艦式隊列の至近距離を通過する形で“飛び入り参加”したということでしょう。単なる偶然の航行でないことは、「てるづき」が先導していることからも明らかです。横須賀在泊中の「てるづき」が観艦式に参加しないのは変だと気になっていたのですが、まさか「R・レーガン」の先導役だったとは…

米海軍が17日前に横須賀に配備したばかりの新鋭空母を参加させたことは、第3艦隊司令官の参加と合わせて、日本周辺有事や離島防衛において、米軍は自衛隊との共同作戦に全力を挙げて協力するという意思の顕れと、東シナ海で不穏な動きを見せる“中華な大国”に対する強烈な警告であると私は考えます。

米海軍がこれほどまで協力姿勢を示すのは、安保関連法案の成立で日米同盟が強化され、米軍と自衛隊の現場レベルでも緊密な連携が取れるようになったことが背景にあるのは間違いありません。米海軍のこの姿勢は強力な抑止力となるのは明らかで、これこそが安保関連法案成立の最大の利点であると言えます。
“戦争法案”と声高に叫ぶ新聞・テレビの記者諸君、現代の国際情勢においては、このようにして平和を保つことを認識し給え!

よく考えれば、海自が「てるづき」という僚艦防空が可能な艦を「R・レーガン」の先導役にしたことは、海自も日本周辺有事で行動する米海軍を全力で支えるという意思表示と捉えることができます。その意味では、今回の観艦式は安保関連法案成立による日米関係の強化・深化が目に見える形で顕れたと言えます。恐らく、新聞・テレビはオスプレイの参加を法案成立の影響として報じるのでしょうけど、そんな事は些末な事象に過ぎません。

安保関連法案成立が「R・レーガン」の“飛び入り参加”に結び付き、その事が我が国の平和と安定に大きく寄与することを、傍にいるオカマのおっさんを含めて、周囲にいる乗艦者の殆どがそこまで考えが及んでいない様子…単に空母が現れて喜んでいるだけです。
沈鬱な気持ちを抱えた私を乗せて「あたご」は観閲へと向かいます。

艦隊と航空部隊への観閲・大反転・展示…観艦式本番も艦艇たちが躍動した観閲・展示編に続く…