2012自衛隊観艦式 〜受閲部隊・出港編〜


事前公開1から6日後の10月14日、2012自衛隊観艦式はいよいよ本番の日を迎えました。
事前公開とは真逆の受閲部隊から見た「もうひとつの観艦式」の模様をお伝えいたします。
10月8日に実施された観艦式・事前公開1から6日後の10月14日、私は再びカメラを手に横須賀の地にいます。そう、この日は8日間に及ぶ観艦式行事のフィナーレ・観艦式本番の実施日です。

事前公開1の時と同様、本番でも私は横須賀から出港するのですが、乗艦場所は吉倉桟橋ではなく、吉倉から新井掘割水路を隔てた船越岸壁で艦に乗り込みます。
吉倉地区には横須賀地方総監部や1護群司令部があるのに対し、ここ船越地区には自衛艦隊・護衛艦隊・潜水艦隊の司令部や、掃海隊群・海洋業務群・開発隊群といった部隊の司令部があり、海自艦艇オペレーションの中枢と言えるエリアとなっています。
船越は敷地が広大なため、門から艦まで長い距離を歩きました。
本日の観艦式本番で私が乗艦するのはDDG「はたかぜ」です。
←の画像ですが、手前に写っているのは「あさゆき」で、「はたかぜ」は目刺し係留によって奥にいる艦です。

今回の観艦式には、「はたかぜ」は受閲部隊にとして参加するため、出港時刻は6日前の事前公開で乗艦した「あたご」より40分以上早い午前8時です。
私は最寄りの京急田浦駅に午前6時5分に到着後、船越地区まで撮影機材を抱えて約10分間激走、呼吸は乱れ、足はふらつきながらも持ち物検査と身体検査を終え、さらに広大な敷地を競歩大会のような早足で駆け抜けて、ようやく「はたかぜ」がいる岸壁に辿り着きました。その時、時刻は午前6時35分。努力の甲斐あって乗艦開始時刻の午前6時50分まで、かなりの余裕があります。
乗艦後、事前公開の時と同様、後部ヘリ甲板の一角に撮影場所を確保しました。「はたかぜ」のいる岸壁に早めに着けたお陰で、理想の場所を確保することができました。

「はたかぜ」は、受閲部隊旗艦「あきづき」の直後を航行します。つまり、「はたかぜ」の後部ヘリ甲板からは、後続する20隻以上の受閲部隊艦艇を撮影できるのです。この日、観艦式本番の最大にして最優先の撮影目標は、後続する「しらね」以下20隻あまりの受閲部隊艦艇が一直線になって航行している姿です。
あと3〜4時間後には、20隻以上の艦艇が「はたかぜ」の後方を航行する…そんな素敵な光景を想像していたら、まだ出港前だというのに既に心は“阿波踊り状態”となっているではありませんか(笑)
うわぁ、待ちきれない!「はたかぜ」、早く出港してぇぇ!!
心を躍らせながら待つこと約1時間、曳船が「はたかぜ」に取り付き、出港作業が始まりました。
その作業のさなかに午前8時になりました。ラッパ譜「君が代」の吹奏に合わせて自衛艦旗が掲揚されます。海上自衛官ならずとも、心が引き締まる瞬間です。
私は姿勢を正しながら、「観艦式本番での乗組員の奮闘を広く伝えるべく、取材・撮影に奮闘いたします」と、自衛艦旗に向かって誓いを立てました。いよいよ、私の闘いも始まります。

自衛艦旗掲揚中も出港作業は途切れることなく続けられています。この際、作業中の乗組員は自衛艦旗への敬礼は免除されます。神聖な儀式よりも出港準備が優先される、この辺りは艦艇というメカで戦う“海軍”らしい合理的な慣習です。
「はたかぜ」は目刺しで横付けしていた「あさゆき」から離れて、ゆっくりと東京湾へと進んで行きます。
「あさゆき」から離れていく際、両艦の乗艦者は互いに手を振り合いました。知らない者同士ではありますが、手を振り合うことで「お互い観艦式を存分に楽しみましょうね!」と呼びかけ合っているように感じました。感動的というか、心温まる素敵な光景です。

「あさゆき」ですが、こうして見ると船体が非常に美しく整備されています。海自艦艇は普段から整備が行き届いていて綺麗ですが、観艦式という3年に1度の晴れ舞台に参加する各艦は、普段よりもひときわ美しく磨き抜かれている印象を受けます。
「観艦式で己の艦に恥をかかせる訳にはいかない」。整備された「あさゆき」の姿からは、乗組員の心意気が伝わってきます。
船越岸壁の対岸、市営長浦桟橋には海洋観測艦「にちなん」(左)「しょうなん」が停泊しています。観艦式に参加しない両艦は、参加艦艇の出入港の邪魔にならないよう退避しているのです。

海洋の水質や変温層の分布、海底地形など潜水艦作戦の遂行に必要なデータの収集という非常に機密性の高い任務に就いている両艦は、一般公開はおろか海自隊員でも関係者以外は乗艦厳禁です。ゆえに、この海洋観測艦が観艦式に参加したことは過去に一度もありません。
個人的には、見学者を乗せない形で受閲部隊の艦艇として参加して欲しいと思っています。ただ参加となると、国民や他国の武官の前で艦の任務や装備等を紹介しなければならないので、機密の塊であるこの艦種が観艦式に参加するのは難しいようです。
「はたかぜ」は自衛艦旗をなびかせながら船越を離れて行きます。岸壁や各艦隊司令部が入居した庁舎、停泊中の艦艇が次第に小さくなっていきます。
この辺りは東京湾に入る直前の海域で、左舷前方には日産自動車追浜工場が立地しています。この工場、非常に広大な敷地を有しているのですが、その場所はかつては帝国海軍横須賀航空隊があった場所です。

6日前の事前公開に比べると波も風も穏やかなのですが、気になるのは空模様です。天気予報は「晴れのち曇り」なのですが、上空には分厚い雲が立ち込めていて、いっこうに太陽が顔を覗かせる気配がありません。なぜ?Why?
何だかものすごく嫌な予感がするのですが…。
あっ、猫ちゃん!!
東京湾に出てすぐ、右舷側から「あきづき」が現れました。「はたかぜ」と同時刻(午前8時)に吉倉桟橋を出港した「あきづき」ですが、「はたかぜ」よりも幾分速い速力で航行しています。航行中のその姿からは、「受閲部隊旗艦という大役を観艦式本番でも見事に務めあげるぞ!」という気合が伝わってくるようです。頑張れ!

曇天なので空も海も艦も灰色一色…。「あきづき」を撮影するせっかくの機会なのに、ご覧の通りのパッとしない画像に…(涙) 
「沖合いに出たら晴れてくるのでは?」という私の期待は見事に裏切られ、それどころか雲はますます厚く、そして低くなっています。これまでの経験から考えると、この雲の状態はかなりの高確率で雨をもたらします。天気予報の降水確率は0%なのに…。
「あきづき」が姿を現したのと時を同じくして、「はたかぜ」の上空をヘリコプターが通過していきました。陸上自衛隊第1ヘリコプター団所属のヘリコプター・EC-225LPです。
皇室・首相・大臣・国賓といったVIP輸送専門のヘリで、陸自内でも「VIP」というそのものズバリの愛称で呼ばれています。この時刻にこの場所を飛んでいるということは、恐らく「くらま」に乗艦する森本防衛大臣を乗せていると考えられます。

防大9期卒で元航空自衛官だった森本大臣ですが、防衛省の最高責任者という立場で自衛隊記念行事(観艦式)に参加するお気持ちはどんなものでしょうねぇ?
私は今は一マニアとして観艦式に参加していますが、ゆくゆくはこのヘリで送迎される身分で参加したいとの野望を抱いてます(笑)
「あきづき」は我が「はたかぜ」の前に出ました。これから観閲が終了するまでの間、「はたかぜ」は「あきづき」の直後を航行します。
「あきづき」の遥か前方には、午前7時55分に吉倉桟橋を出港した「せとぎり」が航行しています。

この時、時刻は午前8時25分。観閲部隊で最も早く横須賀を出港する「あたご」の出港時刻まで、まだあと20分もあります。受閲部隊の艦がいかに早い時間から航海を始めているかがお分かりになると思います。
6日前の事前公開で、私が「あたご」艦上で奈良から来たご夫婦(船務士のご両親)と談笑している時、すでに東京湾と浦賀水道では受閲部隊の艦による観艦式の第一幕が始まっていたのです。
またもや右舷側から艦艇が現れました。「おおなみ」です。
受閲部隊第2群を編成する「たかなみ」「はるさめ」、そしてこの「おおなみ」の3隻は、民間の埠頭である横須賀新港からの出港です。

「たかなみ」「おおなみ」「はるさめ」の3隻は、訓練展示で航行しながら同時に進行方向を変える戦術運動を披露します。事前公開の「あたご」艦上からは単に3隻が順序良く並んで航行しているようにしか見えませんでしたが、果たして「はたかぜ」艦上からはどのように見えるのでしょうか?非常に楽しみです。

航行する「おおなみ」の背後に写っている陸地は三浦半島です。
台地の上に立ち並ぶ建物は、私も高校時代に進学を志望したものの、担任教諭の妨害によって進学し損ねた防衛大学校です。
「おおなみ」は「あきづき」の前に占位しました。受閲部隊は「せとぎり」「おおなみ」「あきづき」「はたかぜ」の順で一列の隊列を形成し、浦賀水道航路を航行します。
一方、「はたかぜ」の後方には「しらね」「はるゆき」が続いているのですが、何故だかまだ遥か後方を航行しています。

浦賀水道航路に入ると、事前公開でも見た夥しい数の漁船が現れました。今日も変わらず航路の至近距離で漁をしています。しかも今日は事前公開と比べ視界が格段に悪いです。「各艦、無事に通り抜けてくれよ…」。心の中で祈らずにはいられませんでした。
航路との近さ以上に操業している漁船の数に驚かされますが、それだけこの海域が漁師さんにとってはいい漁場なのでしょうね。
漁船が操業するエリアを航行中、突如として「はたかぜ」の後方を1隻のフェリーが横切って行きました。目にも鮮やかな塗装を纏ったこのフェリーは、東京湾フェリーの「かなや丸」です。

東京湾フェリーは、浦賀水道を横断して横須賀市久里浜千葉県富津市を約40分で結びます。現在は2隻のフェリーが午前6時台から午後7時台まで、1時間に1本の頻度で運航されています。
国道16号の海上区間を担う非常に重要な航路である一方、東京湾の景色や夜景、浦賀水道を航行する様々な船舶を楽しむ遊覧船的な性格も併せ持っています。
特に船舶・艦船マニアの間ではその存在は広く知られており、この日も観艦式の実施海域に向かう艦隊を撮影するためにこのフェリーに乗船したマニアも多かったようです。
「はたかぜ」の遥か後方を航行していた「しらね」ですが、途中から速力を上げ、浦賀水道航路を抜ける少し前には「はたかぜ」のすぐ後ろにまで迫ってきました。本日、「しらね」は横須賀に帰港するまでずっと我が「はたかぜ」の直後を航行します。「しらね」の魅力的なカットもたくさん撮れそうです♪

「しらね」は3年後の次回観艦式を待たずに退役してしまうので、その雄姿を存分に撮影する機会が到来したことはまさに天佑!
ホント、嬉しいです♪ ただ、天気がなあ…。
航行する「しらね」をこうして前方から眺めると、精悍かつ力強いとてもいい雰囲気を持っています。惚れ惚れしながら「しらね」を眺めていると、私の隣にいた年配の方が「軍艦らしいカッコいい艦ですねぇ」と話しかけてきました。皆さん、感じることは同じようです。
「はたかぜ」が浦賀水道航路を抜けた午前9時40分、2隻前を航行していた「おおなみ」「はるさめ」が左舷前方に見えました。そして、その姿はみるみるうちに大きくなっていきます。ほどんど行き脚が止まっていることから、「あきづき」や「はたかぜ」「しらね」に追い抜かれるのを待っているようです。

各港を三々五々出港した受閲部隊の各艦は、浦賀水道航路を抜けたあと観艦式実施海域に至るまでの間、航行しながら観閲を受ける順番に隊列を作り直すのです。
観閲時における受閲部隊の先頭は旗艦・「あきづき」、我が「はたかぜ」はその次、さらに「しらね」…と続きます。そのため、「あきづき」や「はたかぜ」より先に浦賀水道を抜けた艦は停泊状態になるまで速力を落とし、「あきづき」や「はたかぜ」を先行させます。
「たかなみ」「はるさめ」を追い抜いたあと、今度は「せとぎり」が現れました。やはり、ほとんど行き脚が止まった状態です。
「せとぎり」は受閲部隊第3群の2番艦、先頭の旗艦・「あきづき」から数えて9隻目のポジションに就きます。このまましばらくの間、この地点で微速航行し、我が「はたかぜ」の遥か後方を航行しているであろうDDH「いせ」の直後に入り込みます。

私は受閲部隊の艦に乗るのは今回が初めてなのですが、受閲部隊の各艦はこのようにして隊列を整えていたのですねぇ。左舷前方から次から次へ現れる艦艇を目の当たりにして心が躍りました。そして、私が乗る「はたかぜ」では見学者が歓声を挙げ、マニアによるカメラのシャッター音が甲板上を響き渡りました。
先ほど追い抜いた「おおなみ」が突如速力を上げ、右へ大きく転舵しました。受閲部隊の隊列における自艦の位置に占位するためです。受閲部隊第2群2番艦である「おおなみ」は、「はたかぜ」に後続していた「しらね」「たかなみ」に続くポジションに入りました。

受閲部隊の艦艇が次々に現れては隊列の中に加わっていく…この光景は、小学生時代によく遊んだ長縄跳びで、縄の中に1人また1人と加わっていく様子に似ています(笑)
受閲部隊の艦艇は全28隻(外国艦含む)。これら全艦が観閲を受ける順に一列の隊列を形成する過程は、訓練展示に匹敵する観艦式の大きな見どころと言えるでしょう。事前公開では観閲部隊の艦(「あたご」)に乗りましたが、隊列の形成シーンを見ることができる受閲部隊の艦にも乗艦しておいて本当に良かったです!
「おおなみ」の合流シーンを撮影していたその時、恐れていた事態が現実のものとなりました。空から雨粒が落ちてきたのです。
「神奈川県地方の天候は晴れのち曇り、降水確率は0%」という予報は、ものの見事にハズレたのです(涙)
「はたかぜ」甲板上にいた見学者は、雲の子を散らすように一斉に艦内に避難していきました。私がいる後部ヘリ甲板もあっという間に閑散とした状態に。ベストな撮影場所を確保しようと、早朝に駅から船越岸壁まで激走した努力は水泡と帰しました…。

目の前で隊列形成という素晴らしい光景が繰り広げられているのですから、私は艦内なんぞへ避難はしません。雨合羽を着用して撮影続行です!雨が降るとは思ってもみなかったのですが、万が一に備えて雨合羽を持っておいたのがラッキーでした。
雨に負けじと撮影続行です。「おおなみ」は「たかなみ」の真後ろに付き、受閲部隊第2群までの隊列が整いました。恐らく、さらに後方では、DDH「いせ」と「せとぎり」「はるゆき」などが第3群の隊列を整えているものと思われます。

直後を航行する「しらね」、それに後続する「たかなみ」「おおなみ」「はるさめ」…これらが等間隔で一列になっている様子はまさに絶景、これぞ艦隊の航行シーンといった雰囲気です。
しかし、少し前から降り始めた雨の影響で、「たかなみ」「おおなみ」の姿は霞み、「はるさめ」に至っては殆ど見えません。最高のシーンなのに…(涙) 心底雨を恨めしく思い、撮影しながら「くそぉ〜」とか「雨のバカヤロー」とか叫んでしまいました。
続いて現れたのは5隻の掃海艇。一列になって隊列の通過を待ちます。艦艇の不足により近年の観艦式は参加艦艇が大幅に減少していますが、今回の観艦式には過去最多レベルの5隻もの掃海艇が参加、しかも最新鋭の「えのしま」「ひらしま」型が含まれている点も、マニア的には嬉しいものがあります。

海自艦艇は、どうしても「ひゅうが」型DDHやイージス艦といった大型水上艦艇ばかりに注目が集まってしまうのですが、帝国海軍直系の部隊であり、世界一の技量を誇る掃海部隊にも、もっと注目が集まって欲しいと思います。5隻もの掃海艇が参加する今回の観艦式が、そのきっかけになって欲しいものです。
5隻の掃海艇ですが、呉と佐世保から各2隻横須賀から1隻と、地域的なバランスも考慮されているようです。
5隻の掃海艇で最も注目すべきは、この「えのしま」です。
今年3月に就役したばかりの最新鋭艇で、海自初のFRP(繊維強化プラスチック)製の掃海艇です。私は今回の観艦式で初めて「えのしま」を見たのですが、船体に木目の入っていないことやFRP独特の質感から、模型のレジンキットのような印象を受けました。

最新鋭艇にもかかわらず、配備先が掃海隊群ではなく横須賀地方隊第41掃海隊だったことはかなり意外でした。この事実を踏まえると、来年3月に就役予定の「ちちじま」も第41掃海隊に配備されると考えられます。まずは第41掃海隊の3隻をすべてFRP製に置き換え、その後、掃海隊群の第1掃海隊あたりをFRP製に置き換えていくのではないでしょうか。
掃海艇は掃海母艦「ぶんご」に後続し、受閲部隊第5群を形成します。「ぶんご」が5隻を追い抜いたその時、5隻はまるで「右向け右」をするように一斉に転舵しました。小さくて可愛らしい掃海艇がクルリと向きを変える光景は、見ていて微笑ましさを感じました(笑)

このあと「ぶんご」も右に転舵、「ぶんご」と5隻の掃海艇は横一列になって航行しながら受閲部隊の隊列に加わりました。その光景は、まるで鍛え抜かれたドリル演技のよう。「私たちにも注目してくださいね!」と言わんばかりに、いきなり高い練度を見せつけてきました。掃海部隊、なかなかやるな!
こんな見事な光景が目の前で繰り広げられているのですから、雨だからといって艦内に退避している場合ではないですね
3隻の潜水艦が見えてきました。今回の観艦式には「けんりゅう」「いそしお」「わかしお」が参加、受閲部隊第4群を形成します。
潜水艦も以前に比べると参加隻数が減っていますが、現在就役中の3タイプ(「そうりゅう」型・「おやしお」型・「はるしお」型)が揃っている点は、これまたマニア的には嬉しいものがあります♪

こうして3タイプ3隻の航行シーンを眺めると、各タイプで微妙にシルエットが異なる点が興味深いです。
水上艦艇と異なり、潜水艦は海面上に出ている部分が少ないことが良く分かりますね。さらに、セイルの頂点でも海面からあまり高さがありません。このことは、浮上航行中の潜水艦は視界が効かず、加えて他の船舶から視認されにくいということになります。浮上航行中の艦長・航海長のご苦労は大変なものがありそうです。
潜水艦3タイプのうち、私が最も好きなのは最古参の「はるしお」型なのです。理由はもちろん、涙滴型の船体が美しいからです。
初の涙滴型潜水艦「うずしお」型から数えて三世代目となる「はるしお」型は、涙滴型の最終発展型というべき艦です。流麗な涙滴型の船体ラインと大型化した船体が相まって、とても美しくて優雅なシルエットを生み出しています。

約20年前、学生時代に広島湾で「はるしお」を見て「なんて美しい潜水艦だろう」と衝撃を受けたことを、まるで昨日の事のように覚えています。そんな「はるしお」型も今は3隻まで数を減らし、現役の潜水艦でいるのはこの「わかしお」のみ。時代の流れとはいえ寂しさを感じずにはいられません。
掃海部隊と潜水艦が隊列に加わり、旗艦「あきづき」を先頭に第1群から第7群まで観閲用の隊列が完成しました。
我が「はたかぜ」の後方には「しらね」「たかなみ」「おおなみ」「はるさめ」「いせ」…と26隻もの艦艇が一直線になって航行しているのですが、「たかなみ」より後方は雨で霞んでしまっています
マニアなら誰もが心躍る最高のシーンなのに…
(涙) ○| ̄|_

これぞまさに私が狙っていた光景。私が頭の中で描いていた光景が目の前で現実となっているのに、想定外の雨によって霞みがかかったシケた画像にしか写りません
あまりの口惜しさに、手にしていたカメラを甲板に叩き付けたくなるほどの怒りが込み上げてきました。カメラが壊れたら撮影不能となるので、実際には叩き付けたりしませんでしたが…(苦笑)
午前11時20分、観艦式の開始前にも関わらず観艦式の最大の見どころとさえ言える光景が繰り広げられました。
西に向かって航行しながら隊列を整えた受閲部隊は、観閲部隊と反航するために180度回頭するのです。旗艦「あきづき」に続いて私が乗る「はたかぜ」も船体を左に傾けながら右回頭を開始、斜め後方を見ると、これから回頭を始めようとする「しらね」をはじめ受閲部隊各艦が一直線になって続いています

嗚呼、絶景かな絶景かな…。観艦式自体はこのあと40分後に始まるのですが、私のボルテージはこの時最高潮に達しました。
観閲部隊がまだ観艦式の実施海域に向かっている時に、受閲部隊側ではこのような素晴らしい艦隊絵巻が繰り広げられていたのです。まさに“もうひとつの観艦式”がここにはありました。
「はたかぜ」に続いて後続する「しらね」も転舵、船体を大きく傾けながら右に180度回頭します。

こうして見ると、背負い式に配置された主砲、マック形状のマスト、巨大なヘリ格納庫、ヘリ用甲板など「しらね」の特徴的な形状が良く分かります。なかでも背負い式の主砲配置とマック形状のマストは、今後新造される護衛艦では決して採用されることがないことから、その意味では、「しらね」と同型艦「くらま」は今や非常に貴重な存在と言えるでしょう。
帝国海軍の空母・瑞鶴にも匹敵する大きさ22DDH(1万9500t)の就役は非常に楽しみではありますが、代わりにこの「しらね」が退役するのは非常に寂しいものがあります。
「しらね」に後続する「たかなみ」「おおあみ」「はるさめ」「いせ」なども、変針点に向かって航行しています。
なんて美しくて力強い艨艟たちの姿でしょう…!!尖閣諸島を巡って我が国を挑発し続けている中国の指導者たちに、この光景を見せたいくらいです。この光景を目の当たりにすれば、日本とは事を構えようなんて決して考えないとさえ思える勇壮な光景です。この光景こそが、まさに抑止力です。

くどいようですが、事前公開の時のような晴天だったらどんなに素敵な画像が撮影できたことか…(涙) 灰色の空と海、雨で霞む艦艇たち…まるで3年前の前回の観艦式を見ているようです。撮影をしながら、いつしか私はこんなことを考えていました。
「この雨の原因は何だ?誰か強烈な雨男がいるに違いない」
「しらね」と「たかなみ」は回頭を終え、艦首を東へ向けて航行します。そして「おおなみ」「はるさめ」が、今まさに回頭中です。
後続する「しらね」と「たかなみ」、回頭中の「おおなみ」と「はるさめ」、変針点に向かって航行する「いせ」「せとぎり」…何処にカメラを向けても絶好の撮影チャンス、まさに入れ食い状態です(笑)

私はカメラが壊れんばかりの勢いでシャッターを押しまくります。あまりに素晴らしい場面の連続に、撮影しながら思わず「よっしゃぁぁ!」とか「その絵、もらったぁ!」とか一人ごちてしまったのですが、隣にいた年配のマニアの方から「お兄さん、ご機嫌だねぇ」「ノリノリで楽しそうだねぇ」と笑われてしまいました。どうやら、この時の私は超ノリノリでご機嫌だったようです(笑)
右舷側を見ると、変針点に向かう艦艇が続々と航行しています。写っているのは「けんりゅう」「いそしお」「はるしお」「ぶんご」「あいしま」「みやじま」「ひらしま」「たかしま」「えのしま」です。
画像には写っていませんが、さらにその後方には輸送艦「くにさき」やミサイル艇、外国艦艇が続いているはずです。28隻もの艦艇が一直線になって延々と続いている光景は、壮観を通り越して感動的ですらあります。マニアならずとも誰もが感激することでしょう。

事前公開編でも述べましたが、大きさも性能も異なる艦艇が等間隔を保ちながら一直線になって航行することは、非常に高い技量が求められます。受閲部隊の見事な隊列と回頭を見るだけでも、海自の高い技量が伺えます。空母を保有し気焔を上げる中国海軍ですが、彼らにはこんな真似は逆立ちしてもできないでしょう。
午前11時50分、全28隻の回頭が終了。受閲部隊は相模湾上で今まさに美しき一本のラインと化したのです。
部隊はこれから約10分間東向きに航行し、正午ちょうどに観閲部隊と反航します。観閲部隊めがけて一列になって航行する各艦の姿からは、技量を余すことなく発揮して観艦式本番を成功させようという気合がみなぎっているように見えます。

いよいよ観艦式本番の幕開けです。私のテンションも再び最高潮に達しました。願いが通じたのか、雨は止んだようです。
「観艦式本番でも素敵な画像を撮影するぞ!!」
そんな私のテンションとはうらはらに、このあと予期せぬ事態が次々と私に襲いかかるのでした…。

怒涛の観閲と訓練展示、そして予想外のハプニング。天国から地獄へ真っ逆さまに墜ちた式典・展示編に続く…