2012自衛隊観艦式 ~出港編

10月7日から14日までの一週間、2012自衛隊観艦式にまつわる様々な行事が実施されました。
本稿では10月8日に実施された「観艦式事前公開1」の模様を3回に分けてレポートいたします。

3年ぶりに実施される海上自衛隊最大のイベント・観艦式。この日が来るのを3年間首を長くして待っておりました♪
今回の観艦式、私は8日の事前公開では観閲部隊側から、14日の式本番では受閲部隊側から取材&撮影をすることにしました。3年に1度の一大行事を新聞・テレビはもとより、専門紙・雑誌、さらにはマニアが運営するブログ等に負けない日本一詳細な観艦式レポートを執筆・掲載すべく2度の乗艦を決意した次第です。

私は宿泊先を都内にとったため、京急線品川発午前5時2分の始発電車に飛び乗って横須賀へ。総監部の正門に着いたのは午前6時20分でした。3年前の前回より30分以上早い到着なのですが、既に大勢の人が来場し、身体検査や持ち物検査を受けているではありませんか。うわぁ…何だか焦るなぁ…。

私も急ぎ身体検査と持ち物検査を受けた後、乗艦場所である吉倉桟橋に足を踏み入れます。
そこでは観艦式に参加する艦艇たちが私を待ち受けていました。桟橋の向かって右端に停泊しているのは俺の船 DDH「いせ」、桟橋を挟んで「ゆうだち」「いなづま」「あたご」と並んでいます。船越寄りの桟橋には「あきづき」「くらま」「しらね」「せとぎり」が停泊しています。観艦式でなければ実現しない豪華な光景です。

各艦は普段は各地の母港に散っていて、私は撮影のため各母港やイベントが開催される地方港に遠征しているのですが、それらの艦が吉倉に一堂に集結している様子は、さながら友人たちが横須賀に集まり同窓会を開いているといった趣さえあります。

この日、私が乗艦するのはイージス護衛艦「あたご」です。
「あたご」が観艦式に参加する日がこんなに早く来ようとは…。本当に夢のようです(感涙)

2008年2月に悲劇的な事故を起こしてしまった「あたご」は、その後しばらくの間、国民の目から遠ざけられるような不遇な扱いを受けてきました。観艦式は言うに及ばず、体験航海や一般公開からも除外され、ひたすら受忍の日々を過ごしてきました。
ようやく去年の夏、八戸での体験航海と舞鶴地方隊の展示訓練に参加して国民の前に再登場。そして今年、ついに観艦式への参加を果たしたのです。おめでとう!「あたご」!!

事故後、満身創痍で母港・舞鶴に戻った「あたご」を、私は心配のあまり舞鶴まで見に行きました。3年前の観艦式では「『あたご』頑張れ!」の気持ちを込めて「あたご」の識別帽を被り、周囲にいた人たちの冷たい視線を浴びました
そんな私が、今回の観艦式で「あたご」に乗艦するとは、これはもう運命としか言いようがありません。「あたご」が「ぜひ乗って欲しい」と、私を呼び寄せたと言っても過言ではないでしょう。

乗艦後、私はいち早くヘリ甲板の左舷後方の場所を確保。今回の観艦式は受閲も訓練展示も観閲部隊の左舷側で実施されるため、瞬く間に左舷側が人で埋まりました。
私の隣には奈良県から来たというご夫婦がいらっしゃいました。お話を伺うと、何と、「あたご」の船務士のご両親でした。

そのご両親は、息子さん(船務士)の招きで初めて艦艇に乗ったとのことでしたので、僭越ながら私が、観艦式の内容や近くに停泊している艦艇の説明役を務めさせていただきました。

ご両親と楽しくお話をしていると、突然軽やかな出港ラッパが鳴り響きました。時刻は午前7時55分、「せとぎり」が出港したのです。
「ぜとぎり」は受閲部隊第3群の2番艦です。受閲部隊側の艦は観閲を受ける順に一列に隊列を形成し、なおかつ観閲部隊に反航しなければならないので、観閲部隊側の艦よりもかなり早い時間に出港する必要があるのです。
「きり」型DDは3年前の前回は参加がなかっただけに、6年ぶりの観艦式参加は「隠れ『きり』型ファン」としては非常に嬉しいです♪

午前8時ちょうど。海自で最も神聖な儀式である自衛艦旗掲揚の時間です。ラッパ譜「君が代」が演奏される中、甲板上にいる隊員は皆、艦尾の自衛艦旗に向かって敬礼します。
私は民間人ではありますが、艦旗が揚がる光景を目にすると背筋がピンと伸びる気がします。心の中で艦旗に敬礼をしつつ、神聖な儀式に臨む乗組員を撮影しました。肘を畳んだ海軍式の敬礼がとても美しいです。

この雰囲気に呑まれて、民間人である乗艦者が艦旗に挙手の敬礼をしてはいけません。また、時々体験航海や一般公開で隊員に挙手の敬礼を返す人がいますが、軍人(自衛官)に民間人が挙手の敬礼を返すのは極めて失礼ですので絶対にやめてください。
柄の悪いオッサンなんかがよく敬礼しているよなぁ…。


自衛艦旗掲揚が終わると同時に「あきづき」が出港しました。16年ぶりのDDフルモデルチェンジということで、大きな注目を浴びて今年3月に就役した「あきづき」ですが、今回の観艦式では受閲艦艇部隊の旗艦という大役を担うことになりました。マストには受閲艦艇部隊指揮官である護衛艦隊司令官・池田海将の座乗を示す三ツ星の海将旗が翻っています。

受閲艦艇部隊の旗艦は、観艦式では観閲艦に次ぐ大変名誉ある役割です。過去の観艦式では当時存在した護衛艦隊旗艦、もしくは海自が最も期待する最新鋭艦が充てられてきました。ちなみに、3年前の前回は就役して間もないイージス護衛艦「あしがら」がその任を務めました。

続いて午前8時10分、「しらね」が出港します。「しらね」型DDH1番艦「しらね」2番艦「くらま」の貴重な2ショットです。長らく海自の顔として観閲艦を務めてきた「しらね」ですが、今回は受閲部隊第1群2番艦としての参加です。今年1月から建造が始まった1万9500t型DDH(22HHD)が就役する2015年3月に退役することから、今回が最後の観艦式参加となります。

2007年、奇しくもこの吉倉桟橋でCICの火災を起こし廃艦も検討された「しらね」ですが、大手術により不死鳥の如く蘇り、再び観艦式に戻ってきてくれたのは本当に喜ばしいことだと思います。
海自隊員、そして我々マニアの心の中にその雄姿を刻み込むべく、最後の観艦式を頑張って欲しいと思います。

「しらね」に続いて受閲部隊第3群1番艦を務める「いせ」も出港していきました。そして午前8時45分、観閲部隊の先陣を切って我が「あたご」が出港します。
出港を支援するのは横須賀港務隊に所属する曳船YT79YT99です。横須賀だけでもここ吉倉桟橋船越岸壁横須賀新港の3ヶ所に艦艇が分散して停泊しているので、吉倉ではYT79とYT99の2隻のみで8隻もの艦艇の出港を支援します。

港内を忙しそうに動き回るYTの姿は可愛らしささえ感じますが、大きな艦を手際良く引っ張り出しては次々と出港させる仕事ぶりからは、YTに乗っている隊員の技量の高さが伝わってきます。
海自艦艇の活動を陰で支える“裏方さん”である曳船YTも、護衛艦に劣らない高い練度を有しているようです。

「あたご」は観閲艦「くらま」を左に見ながらゆっくりと進みます。「あたご」には音楽隊は乗艦していないのですが、観閲艦「くらま」や先導艦「ゆうだち」、受閲部隊旗艦「あきづき」には音楽隊が乗艦していて、出港時には行進曲「軍艦」(いわゆる軍艦マーチ)が演奏されます。「くらま」もこのあと十数分後には軍艦マーチの演奏が流れる中、出港するものと思われます。

海上から見ると、吉倉桟橋のすぐ背後に山や丘陵が迫っているのが分かります。丘陵上にある高層マンションは、部屋のベランダから艦艇の出入港がよく見えそうですよね。住みたい!!右側の丘陵上には絶好の撮影ポイントである按針台公園があります。乗艦券を入手できなかったマニアの中には、この公園から出入港シーンを撮影している人もいるのではないでしょうか?

「あたご」は吉倉桟橋を離れて東京湾へ。桟橋に残っている艦は「くらま」「いなづま」「ゆうだち」という観閲部隊の艦のみです。このように観閲部隊の艦は受閲部隊よりも遅い時間に出港します。

出入港時は舫作業が実施されるため、乗艦者は確保した場所を一旦離れて安全な場所に退避しなければなりません。作業終了後に確保した場所に戻ったのですが、その際「場所が違う」だの「俺たちの場所を侵食している」だの叫ぶ人がいるではありませんか。
先のご夫婦にも、立派なカメラを手にした人が「あなた方はもっと向こうにいたでしょ!」みたいな事を言っています。知らないとはいえ、船務士のご両親になんて事を…と思った私。たまらず強い言葉が口を突きました。
「護衛艦は国民の税金で造った物でしょ!あなたの物ですか?」

その場はそれ以上揉めることなく平穏に収まったのですが、このような場所をめぐっての争いが起きても仕方ないくらい「あたご」の甲板上には乗艦者が溢れかえっています。なにせ700人も乗せているということですから…。海自さん、いくら応募が多かったとはいえ乗せ過ぎではないでしょうか?

撮影で甲板上を移動する際には、座ったり寝転んだりしている人を蹴飛ばしたり踏みつけたりしないよう気を遣いました…。
12年前の観艦式の写真を見ると、乗艦者は今より遥かに少なく、舷側にへばり付いて撮影している人なんてごく僅かしかいません。デジカメとネットの普及で俄かカメラマン・俄か評論家が増えたことが要因と考えられます。私もその一人ですが…(笑)

「あたご」は浦賀水道航路に入りました。浦賀水道は1日に700隻もの船舶が通過する日本一(世界一?)の海上交通路で、幅が狭いうえに潮流が速いという海の超難所です。なので、ここを通る船舶は事前に観音埼にある東京海上交通センターに届け出を行い、さらに同センターの管制を受けながら一列になって航行しなければなりません。

我が「あたご」の後方には、「ちょうかい」「くらま」「ちはや」「あすか」の順で続いています。「ちょうかい」と「あすか」は木更津港から、「ちはや」は横浜新港から出港しています。海上は風が猛烈に強く海面には白波が立っています。海面がこのような状態になると、風速は8~10m程度に達しています。まさに「天気晴朗なれども波高し」です。

航路のすぐ脇には夥しい数の小型船が泊まっています。どれも皆色鮮やかな船体なので何だろうと思ったのですが、すぐに操業中の漁船であることが判りました。
私の胸中に嫌な想いがこみ上げてきました。なにせ、「あたご」は漁船とはあまり相性が良くない艦ですから…
「何事もなく無事に通り過ぎて欲しい…」と艦上で思わず神様にお祈りしてしまいました。もちろん、「あたご」は無事に通過しました。

それにしても航路に近い場所で操業しています。「あたご」との距離は70~80mでしょうか。多少引き波で揺れるでしょうが、漁船も何の問題もなく漁を続けています。この光景を見ると、事故発生時に漁船側が語った「『あたご』が3500mまで接近して危なかった」という証言がいかに滑稽なものであるかを感じざるを得ません

午前10時20分、艦隊は浦賀水道航路を抜けました。これを受けて「あたご」の後ろを航行していた各艦が一気に増速、これから観艦式用の隊列を形成していくのです。最初に「あたご」を追い抜いていったのは観閲艦「くらま」です。2006年の観艦式以来3回連続で観閲艦という栄誉ある任に就いています。某艦船雑誌は観艦式後に発売する号のレポートで、毎回のように「次回の観閲艦は「あたご」型」(2006年)、「3年後の観閲艦は「ひゅうが」型」(2009年)といった風に観閲艦が新型艦に代わるとの憶測記事を飛ばしますが、「しらね」型はその憶測を見事に裏切って観閲艦を任され続けています。

観閲艦は式本番では、この先の城ケ島沖で観閲官である内閣総理大臣を乗せたヘリコプターを収容することになっています。

続いて「あたご」を追い抜いたのは、今回の観艦式で先導艦の任に就いている「ゆうだち」です。
先導艦も観艦式では非常に名誉で重要な役割です。とりわけ先導艦は全ての隊列の起点となるため、高い操艦技術が求められます。また、駐在武官やVIP・報道関係者を乗せることから、艦外・艦内ともに徹底的な整備が求められます。よって先導艦は代々、その年における最も高練度かつ整備が行き届いた艦が選ばれます。

観閲艦・受閲艦艇部隊旗艦・先導艦は「観艦式の三役」と呼ばれます(私が呼んでいるだけ?)。今回の観艦式ではその三役がいずれも佐世保の艦というのは、水上艦艇のメッカ・佐世保の面目躍如といったところでしょうか。

「ゆうだち」に続いて「ちょうかい」も「あたご」を抜き去ります。
今回、「あたご」「ひゅうが」と共に随伴艦、平たく言えば「観客席」の役割を担います。体験航海では私と非常に縁のある艦で、2009年7月の鹿児島、そして去年7月の舞鶴地方隊展示訓練で乗艦しました。舞鶴地方隊の展示訓練で、私は「ちょうかい」艦上から「ちょうかい」を抜き去る「あたご」を撮影したのですが、今回はまったく逆の立場となりました(笑)

今回の観艦式に参加するイージス艦はこの「ちょうかい」と「あたご」の2隻です。“観艦式の華”とも言えるイージス艦ですが、今回の観艦式では2006年と同様、受閲部隊にイージス艦が配置されていません。イージス艦が2隻とも“観客席”である随伴艦というのは、ある意味、贅沢な編成と言えますね。

「あたご」の左舷後方からは、観閲付属部隊の各艦が増速しながら「あたご」を追い抜こうとしています。観閲付属部隊1番艦の「いなづま」、2番艦の「あすか」、3番艦の「ちはや」です。観閲付属部隊は、観閲部隊の随伴艦と同じく「観艦式の観客席」です。野球場に例えるなら、随伴艦が一塁側スタンド、観閲付属部隊が三塁側スタンドと言ったところでしょうか(笑)

2003年の観艦式までは、式本番では受閲部隊の艦に一般人は乗ることができなかったので、一般人やマニアが式本番を見るには随伴艦か観閲付属部隊の艦に乗らなくてはなりませんでした。
観閲付属部隊はDDを1番艦にして、試験艦潜水艦救難艦訓練支援艦といった特殊な艦で編成されるのが特徴です。

さらに「ひゅうが」も、右舷後方から「あたご」を抜き去ります。
かなりの速力が出ているように感じたので速力信号標を見たら、第2戦速(約21ノット)を表示しています。空母艦型をした大型艦が、20ノットを超える速力で間近を駆け抜けて行く光景はとても迫力があります。撮影しながら全身が痺れました♪♪

3年前の前回は受閲部隊に属し、乗艦者の注目を一身に集めた「ひゅうが」ですが、今回は“女優”の役割は妹の「いせ」に譲り、観客席の役割に徹しています。考えてみれば、見晴らし良好なヘリ甲板、そして破格の人員収容能力…「ひゅうが」は“最高の観客席”なのかもしれません。「ひゅうが」「ちょうかい」「あたご」…随伴艦3隻は、そのまま受閲部隊になれそうなくらい豪華な顔ぶれです。

左舷後方からは「やまゆき」「てんりゅう」がやって来ました。「やまゆき」は観閲付属部隊の4番艦、「てんりゅう」は5番艦を務めます。特殊用途の艦で編成される観閲付属部隊ですが、「うらが」がペルシャ湾での国際掃海訓練に参加しているため、今回は掃海母艦がいません。そのため、「やまゆき」は「うらが」の代役として白羽の矢が立ったと考えられます。

今回の観艦式では、「ゆき」型DDがこの「やまゆき」のほか受閲部隊の「はるゆき」「あさゆき」の計3隻が参加しています。「ゆき」型も3年前の前回は参加がなかっただけに、6年ぶりの観艦式復帰はマニアにとっては非常に嬉しいものがあります。大学時代の“彼女”でもある「やまゆき」と一緒に観艦式に参加するなんて、何だか感慨深いものがあります…(笑)

観閲付属部隊の隊列が整いました。「あたご」の左舷前方には「ちはや」が航行しています。ご覧のとおり見事な逆光です。あまりに逆光すぎて芸術的ですらあります(苦笑)受閲部隊の隊列は、我が「あたご」と「ちはや」をはじめとする観閲付属部隊との間を航行します。という事は、受閲部隊の艦を撮る時もモロに逆光になるということか…(涙)○| ̄|_

ちなみに、観閲部隊から観閲付属部隊までの距離は800ヤード(720m)あり、受閲部隊の各艦は観閲部隊から300ヤード(273m)の海面を航行して行きます。泳ぎには自信があるので、720mくらいなら問題なく泳げます。許されるものなら、受閲部隊が来る前に順光の観閲付属部隊の艦に泳いで行きたいと切に思いました。

「あたご」が所属する観閲部隊も隊列が整いました。先導艦「ゆうだち」から700ヤード(637m)後ろを観閲艦「くらま」が続き、「くらま」以降の各艦は500ヤード(455m)の距離を保ちながら航行します。

時刻は正午になりました。いよいよ艦艇40隻航空機33機が参加する2012年自衛隊観艦式(事前公開1)が開幕します
今回の観艦式は海上自衛隊60周年の記念行事である一方、尖閣問題で中国との緊張関係が高まっている時だけに、その練度の高さと精強さを見せつけることで抑止力となるべく、各艦に乗る司令官・艦長・幹部・海曹士皆がかつてない意気込みと使命感を持って式に臨んでいるはずです。そう、この観艦式は単なる式典ではなく、我が国の領土と主権を守るための戦いなのです!

見事なまでの秋晴れの下、相模湾で25隻の艦艇が整然と観閲を受けた式典編に続く…