2009自衛隊観艦式 〜訓練展示編〜


式典は20分間で終了。各部隊が一斉に大回頭して向きを変えたあと訓練展示が行われました。
 猛烈に荒れまくる相模湾上で実戦さながらに繰り広げられた訓練展示の模様をレポートします。
各部隊の一斉大回頭は、見事なまでに勇壮な光景でした。

左の画像は、観閲付属部隊最後尾の「てんりゅう」がこれから左に回頭しようとしている場面。その奥には回頭を終えた「こんごう」。さらにその奥にはこれから左に回頭しようとする「あしがら」がいます。
これだけ多くの艦艇が入り乱れながらも衝突することなく、整然と回頭することができるのは、日ごろ培った技量の賜物ですね。

こんなレベルの高い海軍は他国にはありませんよ!マスコミは叩いてばかりですが、世界一の実力を持つ海軍であることも国民に知らせるべきです
トップヘビー気味の「ちはや」は出港以来揺れまくっていましたが、大回頭の際には遠心力が働く船体に高波をくらってひっくり返りそうなくらい傾いていました…(汗)
そのあとちゃんと復元するあたりは日本の造船技術の優秀さを証明しているかのようでしたが、お客さんたちはかなり驚いたのではないでしょうか?

それにしても「ちはや」にも大勢のお客さんが乗っていますねぇ。他の参加艦艇と比べても、「うらが」と「ちはや」のお客さんが異様なほど多いような気がしました。
大回頭が終了。部隊の位置が式典時から入れ替わり、観閲部隊の右舷側を観閲付属部隊が航行する陣形となりました。

我が「うらが」の真横を観閲艦「くらま」が航行しています。
「くらま」の艦橋露天部には観閲官(菅副総理)・防衛大臣・海幕長らが、これから始まる訓練展示を待っています。

観艦式に最高指揮官である首相が欠席したのは1984年以来25年ぶりのことです。外遊が欠席の理由ですが、観艦式を軽視した印象は拭えません。鳩山首相は最高指揮官としての自覚が欠如していると感じざるを得ません。
訓練展示が始まりました。
最初は「はたかぜ」と「さわかぜ」による祝砲射撃です。

「ボン!」という大きな音とともに5インチ砲の砲身から白煙が上がりました。意外なほど大きな音にビックリしました!

展示訓練の幕開けを告げる祝砲射撃ですが、前回と前々回も今回と同様に「はたかぜ」型と「たちかぜ」型が担当しています。
今回は参加艦艇が少ないので2隻だけですが、以前は4〜5隻で祝砲を撃っていました。さぞ壮観だったでしょうね…。
続いて訓練展示の目玉とも言えるボフォース対潜ミサイルの発射です。「ゴォ〜ン」という音とともに弾が発射され、発射と同時に猛烈な黄色い煙が艦を覆います。

ボフォースとはスウェーデンにあるメーカーの名前で、「ゆうばり」型が搭載しているのは、正式には「ボフォース製375mm対潜ロケットランチャー」という名称です。
1960年頃から各国の海軍艦艇に採用され、海自でも「ゆうばり」型のほか「たかつき」型「みねぐも」型「やまぐも」型「かとり」などに搭載されていました。
「ゆうばり」から火花があがっていますが、対艦ミサイルを被弾した訳ではありません(笑)
ボフォースを発射する瞬間、一瞬ですが火花が飛び散ります。
一瞬なので肉眼ではよく見えないのですが、こうして見るとかなり激しく火が出ていることが分かります。

ボフォースは、簡単に言えば第二次大戦時の爆雷が進化したもので、扱いやすさと高い信頼性で各国海軍で重用されました。
しかし、アスロックなどの無線誘導式の対潜魚雷が開発されると、誘導式ではないボフォースは時代遅れの兵装と見なされるようになってしまいました。
ボフォースの弾は発射されると弧を描きながら約1500m前方の海面に着弾。浅い深度で炸裂するよう調整しているので、炸裂後は猛烈な勢いで水柱が立ちます。

かつては護衛艦の標準兵装だったボフォースですが、今や搭載しているのは「ゆうばり」と「ゆうべつ」の2隻のみ。その両艦も老朽化により数年後には退役する見通しです。観艦式でボフォースの発射が見られるのも今回が最後かもしれません。

仮に次回ボフォースがないとしたら、アスロックを発射するのでしょうか?水柱が立たないので見た目は地味でしょうけど…。
続いては潜水艦による急速潜航&急速浮上、いわゆるドルフィン運動です。
画像は「わかしお」が潜航を開始したシーン。潜水艦が海中にその姿を潜らせていく様子も結構痺れます。まるで潜水艦が海に棲む生き物のような気がしてきました。

ちなみに、潜水艦は海に「潜る」のであって「沈む」のではありません。潜水艦の艦内では沈むという言葉は禁句であり、つい「沈む」と言ってしまおうものなら、乗組員から即座に「沈むのではなく潜るのです!」と、きつい口調で訂正されてしまいます(苦笑)
急速浮上した「わかしお」。浮上する位置が「うらが」から遠くて、こんな角度からしか撮影できませんでした…(涙)

浮上の角度が随分浅いような気がします。この高い波が影響しているのでしょうか?
この急速浮上は訓練展示用のパフォーマンスであって、非常に危険な浮上方法なので通常の航海では絶対に行われません。さらに搭載している機器に負担を与えることから、高度にハイテク化された「おやしお」型と「そうりゅう」型は行うことができません。

ボフォース同様、このドルフィン運動も近い将来、観艦式で見ることができなくなりそうです。
ふと気付けば、「ひゅうが」が観閲部隊と観閲付属部隊の前方を直角に横切る形で出現しました。まるで目の前に突如壁が現れたかのように感じました。
至近距離で見ると「ひゅうが」は大きいです!

飛行甲板上にはSH60-Kが2機とまっています。ヘリの脇には日向市での一般公開で熊本のM.Hさんが運転席に乗って大喜びした艦載救難作業車があります。発着艦作業の際には万一に備えてスタンバイしているるのでしょうね。

空母は艦載機を発着艦させる際は風に立つ(向かい風になる方向に航行する)のですが、ヘリ空母の場合はどうなんでしょう?
「ひゅうが」からSH 60-Kが2機同時に発艦しました。
飛行甲板がこれだけ広いと、護衛艦よりも発着艦が遥かに楽そうです。

日向市での一般公開では岸壁に接岸された状態だったので、実際に航行しているシーンを見るのは初めてなのですが、どう見ても「ひゅうが」はヘリ空母ですな…(笑)
ちなみに左舷側からじっくり見るのも初めてなのですが、「ひゅうが」は右舷側で接岸するのを前提に設計されているので、左舷側には乗降口や係留用の設備がありません。
荒波の中、「おおすみ」搭載のLCACが爆走してきました。
LCACはLanding Craft Air Cushionの略で、訳すとエア・クション型上陸用舟艇となります。
水陸両用のホバークラフトで人員を最大180人輸送できるほか、70tの積載能力があるので90式戦車の輸送も可能です。

私の地元には旅客輸送を行っていたホバークラフトがあったのですが、10月末で廃止されたため、このLCACが日本で唯一運用されているホバークラフトになってしまいました。
地元のホバークラフトは少しでも時化ると運休していましたが、その点LCACはさすがです(笑)
LCACの興奮も冷めやらぬうち、遠くから炸裂音とともに白煙と火花が広がりました。
「くまたか」と「おおたか」がIRデコイを発射したのです。
IRデコイは敵のミサイルを撹乱したり、猛烈な煙で敵の目をあざむくための防御兵器です。画像ではよく見えませんが、飛び散って海に落下する火花がとても綺麗でした。

立ち込める煙の中から「くまたか」と「おおたか」が現れるシーンは、鳥肌が立つほどのカッコ良さでした。
IRデコイは海面に落下後も煙を出し続けていて、撮影ができないほど煙が立ち込めました。これなら敵の目を欺けますな(苦笑)
両艇は35ノットで観閲部隊と反航した後に転針し、観閲部隊と観閲付属部隊の間を駆け抜けて行きました。
2隻のミサイル艇が40ノット近い高速で疾走する航行シーンは迫力満点!しかも波が荒いので迫力に拍車がかかります。

「はやぶさ」型ミサイル艇は、1999年に発生した能登半島沖不審船事件の教訓を取り入れて、強力な打撃力と優れた航行性能を盛り込んで設計されました。
2002年から2004年にかけて6隻が建造されましたが、この「くまたか」と「おおたか」は、就役直後の前々回(2003年)以来3回連続で観艦式に参加しています。
波を切り裂くように航行する「くまたか」
時には転覆寸前にまで傾き、時には姿が見えなくなるほど大波をかぶるなど、まさに荒波に立ち向かうかのような奮闘ぶりです。乗組員の方々もさぞ大変でしょう…。

ミサイル艇隊は大湊(第1)・舞鶴(第2)・佐世保(第3)に置かれ、計7隻のミサイル艇が24時間体制で日本海に睨みを効かせています。しかし、修理やドッグ入りなどを考えると7隻では運用が苦しいのではないでしょうか?
ミサイル艇の増強も切に望まれるところです。
スピード感満載だったミサイル艇のあとは、ゆる〜い雰囲気で飛行艇が2機やって来ました。

まずは現在導入が進められている新型飛行艇US-2です。観艦式初お目見えとなります。
US-1A同様、戦前に優れた飛行艇を世に送り出した新明和工業製(当時の社名は川西航空機)で、この3号機は濃緑色塗装ということもあり、まさに名機・二式大艇の再来といった雰囲気です。

まるで止まっているかのような遅さ!素晴らしい性能です(笑)
続いてお馴染みのUS-1Aです。

岩国基地に7機、厚木基地に1機が配備され、救難や離島での急患輸送で活躍しています。
風速25m、波高3mまでなら海面に着水が可能で、さらに5000kmにも及ぶ長大な航続距離を有しています。これにより飛行場のない場所や、日本本土から遠く離れた場所でも行動が可能です。現海上幕僚長の赤星海将もUS-1Aのパイロットでした。

US-1A、US-2とも模擬離着水ということで、実際の着水はありませんでした。しようと思ってもこの時化では無理ですが…。
続いてはP-3Cがやって来ました。
突如、機体から花火のような美しいものが飛び散って落下してきました。これはIRフレアというもので、自機よりも強い赤外線を発することで赤外線追尾のミサイルを撹乱するものです。ミサイル艇のIRデコイと同じ役割ですね。

敵のミサイル追尾をかわすという、まさに切羽詰まった時に使う兵器ですが、使用時の状況とはうらはらにとても綺麗です。

飛行機の写真を撮った経験がほとんどない私。ご覧の通り、発射の瞬間を逃してフレアが少ししか写っていません…。
「あぶくま」の彼方に猛烈な水柱。艦隊が空襲を受けた訳ではなく、P-3Cが150kg対潜弾を投下した際の水柱です。

水柱だけではなく爆発音もすごかったです。これでは直撃を食らわなくても至近距離で炸裂しただけでも、潜水艦は木っ端微塵になりそうです。

ちなみにP-3Cからの投下の瞬間の画像がないのは、狙っていたにも関わらずタイミングを逃してしまったからです。やっぱ艦艇一本槍のマニアに飛行機の撮影は無理です(笑)
約50分間に渡って繰り広げられた訓練展示も終了。参加艦艇はこれから約3時間かけて、横須賀などの港へ戻ります。

私が初めて参加した今回の観艦式は、参加艦艇が少ない上に天候も最悪というマニアにとっては泣きたくなるような条件が揃ってしまいましたが、勇壮な艦隊の姿と訓練展示を見て満足感と充実感に満たされました。
3年後も必ず相模湾に戻ってくるぞと心に誓った私でした

式も終わりあとは横須賀に戻るだけ…と思っていたのですが、帰りの航海には思わぬ見所と事件(?)があったのです。

家に着くまでが遠足、港に接岸するまでが観艦式。思わぬ見所満載の帰投編へ