2011GW遠征 〜呉・艦艇公開編〜


5月3日に呉基地へ撮影遠征しました。この日の艦艇公開では練習艦「かしま」が公開されました。
例年、艦艇撮影の旅に出ているGWですが、今年は呉にやって来ました!!
昨年同様に舞鶴への遠征も考えたのですが、舞鶴総監部が震災対応により艦艇の公開を中止していることや、それとは対照的に呉総監部がGW期間中に毎日艦艇公開を行うという粋な計らいをみせているため呉にしました。

午前8時半ごろに呉に着いたのですが、五月晴れとはほど遠い最悪な天候です。遠くが霞んでいるのは黄砂の影響です。
曇り空で光量が不足気味なのに黄砂で数十m先さえも霞んでしまうという最悪な撮影条件です。「五月晴れの美しい空と新緑を背景に艦艇を撮る」という狙いは根底から崩されました…(涙)
まずは艦艇マニアの聖地・「アレイからすこじま」が潜水艦を撮影です。前方左は「あらしお」、右は3月に退役した「はやしお」、後ろにいるのは「くろしお」です。
5月3日は年に6回ある満艦飾の実施日ですが、潜水艦は艦橋上のマストに自衛艦旗と長旗(司令艦は司令旗)の両方を掲げることが満艦飾に相当します。

機密の塊である潜水艦を至近距離から撮影できるなんて日本は本当にいい国だと思います。同じ事を中国でやったら身柄を拘束され、最悪死刑になる恐れさえあるでしょう。
中国といえば、視界を遮っている黄砂の飛来元ですよねぇ。まったくもう…私の中国嫌いにさらなる拍車がかかりました(笑)
からすこじま岸壁(Aバース)には、主である「ひびき」と「はりま」はおらず、代わりに敷設艦「むろと」が接岸しています。
「むろと」はこれまで呉で頻繁に見かける割には、全身を障害物なしで撮影する機会に恵まれなかっただけに絶好のチャンスです。その極めてユニークな姿を余すことなく画像に収めました。

「むろと」は海底ソナーとそれに繋がるケーブルを敷設・収容することを任務とした特殊な艦で、その機密の高さは海自の中でも「ひびき」「はりま」と双璧をなします
舷門には「関係者以外乗艦禁止」という物々しい看板が懸かっている艦ですが、そんな機密いっぱいの艦でも色とりどりの満艦飾を施しているのは何だか微笑ましく感じます
午前10時からの艦艇公開の時刻が迫ってきたので、呉基地内の集合場所へ行きました。
GWということもあり、大勢の人が見学に訪れていました。ざっと見たところ100人以上はいるみたいです。見学申し込みの名簿を見ると、関東地方や名古屋方面から来ている人もいました。

去年のGWに訪れた舞鶴にも大勢の人が詰め掛けていましたし、ここ数年海自基地は観光地の様相を呈しています。見学を通して多くの国民が海自や海上防衛に関心を持ってくれれば、観光地化も決して悪いことではないと思います。
特に今年は震災の被災地における自衛隊の支援・捜索活動が評価されているので、見学者も例年より多いような気がします。
5月3日の広報担当艦は練習艦「かしま」です。
私がこの日を選んで呉に遠征したのは、ひとえに、この「かしま」を撮影したかったからです。

実は、「かしま」は3月下旬に寄港先の鹿児島で一般公開が実施されることになっていて、私も遠征する予定だったのですが、震災により中止となってしまいました。
1年の半分を海外に出ている艦なので、「今年も見学は無理か…」と諦めていただけに、今回の公開は私にとっては神様が与えてくれた千載一遇のチャンスなのです!
遠洋練習航海のため8日に呉を出港するとのこと。出港準備で忙しいさ中によくぞ公開してくれました。ありがとう「かしま」!
心を躍らせながらラッタルを昇り乗艦します♪
「かしま」は乾舷が非常に高いことがお分かりになると思いますが、これは艦内の区画を実習が行いやすいよう広くしていることや、実習幹部用の居住区画(女性専用居住区も)を備えるためこのような船体となりました。
帝国海軍の練習艦「鹿島」も同じように乾舷が高い艦でした。昔も今も専用練習艦に求められる性能は同じなのかもしれません。

「かしま」は「かとり」の代替となる専用練習艦で、1995年1月に就役。建造造船所は日立造船舞鶴事業所でした。基準排水量は4050tですが、高い乾舷と幅広な船体によって排水量以上の大きさを感じます。
見学者は10〜15人程度のグループに分けられて、案内役の隊員の先導によって艦内を見学します。
私のグループの案内役は補給科の三曹で、「補給科なので武器には詳しくないんですよねぇ〜」などと言いながらも、基礎的な事はきちんと説明していただけました。

←は三連装短魚雷発射管を説明しているところ。
私にとってはお馴染みの装備品ですが、見学者の方々は「魚雷」と聞いただけで大興奮!!居合わせた少年は「これで中国の軍艦を沈めるんですか?」などと、とてもナイスな質問をしていました(笑)将来が楽しみな少年です。
ちなみに短魚雷は対潜水艦用の武器です。
艦橋を見学することができました。上甲板だけの見学かもと覚悟していただけに大感激です。

「かしま」は90年代前半に建造された艦なので、航海用の機器は旧式とはいかないまでも一世代前のものとなっています。よって艦橋の雰囲気は、同時期に建造され同じような機器を有する「きり」型護衛艦に近いものを感じます

ただ、「きり」型と違ってかなり広く、天井もやや高めです。実習幹部が実習しやすいよう余裕のあるスペースになっていることが分かります。この場所で実習幹部が指導を受けている写真を艦艇雑誌で見たことがある人も多いのではないでしょうか。
まさにこれぞ練習艦という装備品がこれ。艦橋中央部にジャイロコンパスがふたつ設置されています。
案内役の隊員さんによると、実習幹部は左側のジャイロコンパスを使って指導を受けたり、実際に操艦を行ったりしているとの事。ということは、主に左側が実習用右側が通常航海用となっているようです。

実習幹部は江田島の幹部候補生学校で、操艦練習用の支援船(YTE)を使って実際の操艦を学んでいます。
しかし、YTEは170t足らずの小船です。4000tを超える「かしま」のジャイロコンパスの前に初めて立つ時はさぞ緊張するのではないでしょうか
艦橋右舷側にある艦長席です。
現在の「かしま」艦長は、当HPを閲覧するマニアの方々の人気が高い柏原一佐です。

柏原一佐といえば、「くらま」艦長時のおととし10月に関門海峡で韓国籍の貨物船と衝突する事故に見舞われました。
艦首が激しく損傷し、10時間も火災が続いたのにも関わらず、適切な応急処置によって艦を沈めなかっただけではなく、一人の死者も出しませんでした。
艦長として応急処置やダメージコントロールを指揮するという貴重な経験を積んだ柏原一佐が「かしま」の艦長というのは、非常に素晴らしいことだと私は考えます。実習幹部に事故の経験に基づいた実戦的で効果的な指導を行うものと期待しています。
左舷側の黄色い席は司令官席
練習艦隊の司令官は海将補の職です。現在の司令官は大塚海将補で、去年12月に第2護衛隊群司令から異動してきました。

練習艦隊は実習幹部の教育に加え、遠洋練習航海で諸外国を訪問する外交使節団的な役割も持つことから、司令官職は非常に重要視されています。歴代の司令官には現海幕長の杉本海将をはじめ、のちに海幕長や自衛艦隊司令官等の要職に就いた将官が名を連ねています。ちなみに練習艦隊司令官の任期は1年で、毎年12月に交代します。

司令官席の後方に見える赤い椅子は首席幕僚の席です。首席幕僚は一佐が務めます。
艦橋ウイング部から艦首を望んだところ。非常に幅広の船体であることが分かります。
この幅広の船体は、高い乾舷と同様に艦内容積の増加に貢献しているほか、航海経験が浅い実習幹部が外洋の荒波に揺られて船酔いしないよう、艦の安定性と復元性を高めるために採用されました。

左端に見えているのは礼砲です。「かしま」は艦橋前部に2門の礼砲を装備しています。
礼砲は軍隊における国際儀礼で、「かしま」は外国の港に入港する前に相手国の国旗に対して21発の礼砲を発射します。ただ、訪問先の港に答礼用の礼砲がない場合は実施されません。
艦橋構造物内には銀色に輝くプレートが飾られています。

左端は「かしま」が参加した遠洋練習航海のコースが記されています。「かしま」が初めて参加した1995年の遠洋練習航海は世界一周コースだったようです。
私が艦隊を晴海ふ頭で見送ったおととしは中東・欧州コース、去年は世界一周コースでした。そして今月下旬に晴海を出港する今年の航海は、北米・中米コースが予定されています。

中央のプレートには歴代の練習艦隊司令官の氏名、右端のプレートには歴代の「かしま」艦長の氏名が刻まれています。現在の柏原艦長は第17代目の艦長にあたります。
艦橋構造物を出て艦首へ。
艦の前部には76ミリ単装速射砲があります。「かしま」が搭載する兵装はこの76ミリ砲と短魚雷発射管のみです。アスロックやシースパロー、ハープーンなどの対艦・対空・対潜ミサイルの発射訓練はシュミレーターを使って実施されるため、実物は搭載されていません。
ミサイル類を実際に発射する訓練は、随伴する練習艦や護衛艦を使って行われます。

前代の練習艦「かとり」は、シュミレーターがない時代の艦なので、連装速射砲や短魚雷発射管、ボフォースなど当時の護衛艦が搭載していた標準的な兵装が備えられていました。
海自艦艇で「かしま」だけが搭載している装備品が将官艇です。
その名のとおり、練習艦隊司令官専用の交通艇です。

主に外国の港で司令官が海上移動する際や、各国の要人を洋上の「かしま」にお迎えする際に使用されます。このような将官艇を持つのは、礼砲と同様、練習艦隊が外交使節団的な性格を持つために国際儀礼を重視しているためです。
あらゆる物がねずみ色の艦艇の中で、青と白の鮮やかなツートンカラーの将官艇はひと際目立ちます。

豪華さだけではなく性能もかなりのもので、2軸のスクリューにより27ノット最高速力を誇ります。乗ってみたい!
艦橋構造物のやや艦尾寄りの入口は、ご覧のように豪華な内装となっています。軍艦というよりは客船といった雰囲気です。

ここはVIPをお迎えするための専用入口で、乗組員はここから出入りすることはできません。もちろん、見学者である私もここから艦内に入ることはできませんでした(笑)
入口を入ると右側に木で装飾されたラッタルが上に伸びており、司令官公室へ続いているものと思われます。

訪問先で様々な儀礼行事を行う「かしま」は、その会場となる各種公室は国際儀礼にふさわしい造りとなっています。中でも艦橋構造物前部にある特別公室は、国家元首級の要人の来艦にも対応できるグレードの高さを誇ります。(見学は不可でした…)
実習幹部の教育で使用する実習員講堂です。約200人を収容することができます。
実習幹部はここで授業や試験を受けるほか、「かしま」を訪れたゲストによる講話を聞いたりします。

ずらりと並んだ机とイスのほか黒板や教壇もあり、一見すると大学の講義室のようです。実習員講堂はある意味、「かしま」を代表する設備であり、「かしま」が軍艦であると同時に学校・教育の場であることを象徴する場所でもあります。
護衛艦から転用された練習艦(「あさぎり」「しまゆき」)には、このような専用の実習員講堂はなく、ヘリコプター格納庫にプレハブの講堂を仮設して対応しています。
「かしま」の艦尾ですが、同じく90年代初頭に建造された「きり」型DDや「あぶくま」型DEに似た構造となっています。なかなかスタイリッシュで、私はこの形式の艦尾が大好きです。

艦後部の甲板はヘリコプター発着用の甲板ですが、この場所を使って様々な訓練が行われるほか、赤道祭などの各種レクリエーションの会場としてや、寄港先でのレセプション会場など多目的に使用されます。
ヘリ甲板と上甲板はなだらかなスロープ(オランダ坂)で結ばれていますが、これは艦上体育を行う実習幹部や乗組員がマラソンで艦を周回できるよう配慮して採用されました。実習幹部として遠洋航海に参加した幹部から要望が出されたとのことです。
Eバースには「あさぎり」「せんだい」もいました。
「あさぎり」は今年、「かしま」に随伴して遠洋練習航海に参加します。「あさぎり」の遠洋航海参加は2008年以来3年ぶりです。

「きり」型で共に練習艦を務めていた「やまぎり」異例の種別変更で護衛艦に復帰したことから、4桁の艦番号を背負う「きり」型はこの「あさぎり」のみとなりました。考えてみれば、「きり」型のような一線級の戦闘艦艇を2隻も練習艦として使っていたなんて、とても贅沢な状況だったんですねぇ(笑)
「せんだい」は3月に「とね」と共に佐世保から転籍してきました。長らく佐世保地方隊の顔だった「せんだい」と「とね」ですが、今やすっかり「チーム呉」の一員となっています。
Dバースには輸送艦「くにさき」がいます。
私の出身地・出身高校と同じ名前を持つこの艦には、同じ故郷出身の同級生のような親しみを感じます(笑)
震災発生直後から被災地支援に参加していて、私が3週間前に横須賀を訪れた際には吉倉桟橋で物資を補給していました。

「おおすみ」型輸送艦は輸送任務のみならず、災害派遣や国際救急援助活動を視野に入れて造られた艦です。なので、大震災発生直後から「おおすみ」「しもきた」「くにさき」の全艦が被災地に入り、生活支援を中心に懸命の支援活動を展開しました。
支援任務が一段落したので戻って来ているのでしょうか?もしかしたら休養を取ったあと再び支援任務に戻るのかもしれません。
Fバースには3月16日に退役した「ひえい」が係留されています。
艦からは人影が消え、砲身や各種装備品が取り外されています。嗚呼、なんて無残な姿に…(涙)
私が最後に「ひえい」を見たのは去年9月の下関での一般公開でした。あの日、残暑が厳しい晴天の下で古いながらも見事な機能美を私たちに見せつけていた「ひえい」ですが、今の姿は僅か半年前の雄姿さえも忘れさせるほど痛々しいです…。

退役した艦艇は、解体業者に引き渡されるまでの間、基地内やその近くの湾内に係留されていますが、痛々しく無残な姿を晒しているのはとても心苦しいです。個人的には退役後はさっさと解体して欲しいとさえ思います。
基地内で夢中で撮影したので、大汗をかいて喉が乾きました。
そんな時に役に立つのがこのコンビニ。「セブン・イレブン潜水艦桟橋前店」です。それにしてもすごい店名です(笑)
「アレイからすこじま」の国道を挟んだ反対側にあり、撮影で喉が渇いたりお腹が減ったマニアのまさにオアシスです。マニアだけではなく潜水艦乗組員も利用していて、店内はいつも賑わっています。Tシャツやタオルなど様々な海自グッズも販売していますので、呉基地に撮影に訪れた際はぜひ立ち寄ってみてください!

このあと私は、沖合いに停泊しているDDH「いせ」の撮影に向かいます。沖にいる「いせ」をいかにして撮影するか。ある可能性にかけてとある場所へ向かいました…。

実習幹部を一人前に鍛える練習艦「かしま」。その特殊な装備や設備の数々に心が躍りました♪