鹿児島港 「さみだれ」一般公開


鹿児島・谷山港で、ソマリアから帰国したばかりの護衛艦「さみだれ」の一般公開がありました。
いまだソマリアの空気が色濃く残っていた「さみだれ」艦内と乗組員の証言をレポートします。 
この夏一番の思い出となった「くらま」「あしがら」「ちょうかい」の体験航海から3ヶ月。再び鹿児島・谷山港にやってきました。
空は灼熱の夏空から爽やかな秋空に変わりましたが、私のマニア心はいまだ燃え盛っています。そう、私の夏はまだ終わっていないのです!

今回のターゲットは護衛艦「さみだれ」。8月16日に4ヶ月に及ぶソマリアでの海賊対策任務から戻ってきたばかりのフネです。
戦場(=ソマリア)の空気が色濃く残っているであろう艦の雰囲気は如何に…?
0800に自衛艦旗の掲揚。
いつもの事ながら、身も心も引き締まるひとときです。

私は体験航海や一般公開では、可能な限り自衛艦旗掲揚までに到着するようにしています。厳粛な空気に包まれる掲揚シーンを撮影するためですが、それ以上に私の中の海軍DNAがあのラッパ譜を聞きたがるのです
祖父・父そして私と脈々と流れる海軍の血を実感するひとときでもあります。
朝日を浴びて美しく輝く「さみだれ」。

雲ひとつない澄みきった秋空、光輝く南国の海面、そして見事なまでの造形美を誇る「さみだれ」。
嗚呼、日本の軍艦(=海自艦艇)は美しい!!

「さみだれ」は帰国後、半月ほどドック入りしたあと、「さざなみ」とともに九州近海での訓練に出たとのこと。その途中に今回の鹿児島寄港となったようです。帰国早々訓練航海に出るなんて、あまり休ませてもらえないようです。
このところ艦艇公開には大勢の市民が押し寄せるので、今回もかなり心配していたのですが、絶好の運動会日和のためか岸壁に訪れる人は少なめ。乗艦待ちの列もできませんでした。

しかしながら、ただ一人だけ乗艦開始を待つ人の姿が…。
なんと、このコーナーですっかりお馴染みとなった熊本のM.Hさん(右側の何故か艦に敬礼している人物)ではありませんか!またしても彼が一番乗りのようです(笑)

ちなみに彼は午前5時頃から岸壁に来ていて、起床ラッパも聞いたとのこと。どうしてそんな早くから来てるの!?
上甲板からみた主砲と艦橋構造物。
「さみだれ」の船体は、ソマリアでの過酷な任務から戻ったばかりとは思えないほど美しく整備されていました。

ただ任務中はアデン湾に吹き付ける砂嵐で甲板は汚れ、舷側も現地のタグボートの荒っぽい操船によってかなり汚れていたとのこと。帰国後、ドック入りしている間に乗組員総出でペンキを塗ったといういことです。
ちなみに、海自には「艦に恥をかかせるな」という合言葉があって、艦が汚れたままになっているのをひどく嫌います。
艦橋です。

ソマリア沖ではここに派遣部隊指揮官の五島司令や艦の幹部、さらには同乗の海上保安官が立ち、商船護衛の指揮を執りました。まさに海賊と対峙した場所です。
その時の緊迫した様子はニュースや新聞で見ましたが、いま私が立つこの艦橋がまさにその場所だと思うと、思わず身震いがしてしまいました
案内役の隊員以外は誰もいない艦橋でしたが、私の耳には商船護衛中の喧騒が聞こえてくるような気がしました。
艦長席です。
「さみだれ」の艦長は、十数年前に取材でお世話になった松井二佐です。在艦しているようならご挨拶をさせていただこうと考えていたのですが、故郷が鹿児島ということで実家の方に帰っており不在でした。あら残念。

ソマリアでの海賊対策・商船護衛という初の任務に第一陣として赴き、艦長として乗組員を統率し無事任務を達成したのはとても凄いことだと思います。
松井二佐、本当にお疲れ様でした!!
艦長席と司令席の前には、日本の海運会社に所属する商船の識別表が残っていました。まさにソマリアの痕跡です。

「さみだれ」と「さざなみ」は3月30日から7月22日までアデン湾で商船護衛の任務に就き、この間に41回の護衛ミッションを実施し、124隻の商船と客船を安全な海域まで導きました。

現在は第2陣の「はるさめ」「あまぎり」が護衛任務に就いているほか、第3陣として「たかなみ」「はまぎり」が今月13日に横須賀を出港しています。
「さみだれ」の艦内表札です。
「むらさめ」型の各艦は艦橋右舷の入口を入ってすぐの場所に、有名な書家が揮毫した表札と、艦の歴史を記したプレートが設置されています。ソマリアでの護衛任務も近いうちにこのプレートに刻まれるのでしょうね。

この場所には若い海士君が案内役として立っていました。彼は通信員で、緊迫した艦橋の空気を肌で感じたとのこと。特に海賊が「さみだれ」に近付いて来て一触即発となった時は、全身に冷や汗が流れたくらい緊張したということです。
表札の近くには艦の三役(艦長・副長・先任伍長)の写真が飾られています。
アメリカ海軍の影響だと思うのですが、ここ数年でほとんどの艦で三役の写真を飾るようになりました。

左下の先任伍長とは艦内でお話を伺うことができました。
自分自身の配置をこなすことに加え、まとめ役として曹士たちの体調や精神状態に色々と気を配ったとのこと。
「一人のケガ人もなく帰国できたことが、先任伍長として何より嬉しい」との言葉が印象的でした。
カバーが掛かっててよく分からないかも知れませんが、実はこれ、海賊警戒で使用した12.7mm機銃の台座です。
護衛任務中は、砲雷科の隊員が機銃を手に警戒監視を実施し、海賊が攻撃して来た際には迎撃することになっていました。

あまり知られていませんが、海自と海賊は何度か戦闘一歩手前にまで至ったことがあります。機銃を担当した隊員によると、海賊に機銃を向けて構えた時には、引き金に伸ばした指が震えるほど緊張したとのこと。しかも、その時は海賊対処法案の成立前だったので、撃っても命中させてはいけないというジレンマに苦しんだと証言してくれました。
ヘリ格納庫には、ソマリアでの任務完遂に対して麻生前首相から贈られた表彰状と盾が展示されていました。
自衛隊最高指揮官である内閣総理から直々に贈られた賞賛と感謝の印、乗組員にとってはとても名誉な品です。
盾は、内閣総理大臣を表す金の五つ星と月桂樹の葉が輝くとても格好いいものでした。

「さみだれ」と「さざなみ」は一般の商船のみならず、海自のソマリア派遣に反対するピースボートがチャーターした客船も護衛しました。ピースボートの方々、ちゃんと感謝状を出しましたか…?
表彰状と盾が展示されている横には、派遣部隊のソマリアにおける活動の様子が写真で紹介されていました。
護衛任務中の緊迫した場面のほか、艦上体育やレクリエーション、食事の風景など、厳しい任務に挑む乗組員の様々な表情が伺えます。

乗組員にとって護衛任務の大変さは言うまでもありませんが、さらに大変だったのは食糧だったようです。肉は腐りかけ、野菜は水分が抜けてしおれているなど、現地で調達する食糧は目を覆うほどの酷さだったとのことです。
護衛した商船からの感謝のメッセージも紹介されていました。
どの船も護衛に心からの感謝の意を示すとともに、派遣部隊の無事なる任務遂行を祈る感動的なメッセージが並んでいます。
乗組員にとっては首相からの表彰状以上に嬉しいものなのかも知れませんね。

アデン湾を通過する商船にとっては、海賊から守ってくれる海自艦艇は本当に心強くて頼りになる存在だったと思います。
これからは日本近海で海自艦艇と出くわしたら、きちんと敬礼しましょうね!
護衛任務の様子を収録したビデオの上映会も行われていました。ヘリ格納庫は、さながらソマリアでの任務を紹介する広報コーナーといった様子でした(笑)
画面を指差しながら任務の概要を説明する隊員さんの表情が、とても誇らしげでした。

また、任務自体がニュースで大きく取り上げられたことから市民の関心は高く、テレビモニターの前には大勢の見学者が集まっていました。私もパイプ椅子に座ってしばらくの間、隊員さんの説明を聞きました。
ヘリ格納庫の壁には、カポック(救命胴衣)やOBA(非常用呼吸器)、消火被服が懸けてありました。
一瞬、格納し忘れているのかと思いましたが、実は艦の見学者が自由に着ることができる試着コーナーでした。
これら以外にも、海自の制服やパイロットのフライトスーツまで用意されていました。

で、ふと気づくと、あのM.Hさんがフライトスーツを身にまといヘリパイロット用のヘルメットを片手に記念撮影をしていました(苦笑) おいおい、そんなのいつの間に着たんだぁ!?
この日、「さみだれ」はヘリを搭載していました。
現在、第一線部隊に順次配備されている新型の対潜哨戒ヘリSH-60Kです。
「さみだれ」は呉基地所属の艦なので、長崎県の大村航空基地に所在する第22航空群第22航空隊所属のヘリが搭載されます。

前タイプのSH-60Jよりも洗練されたデザインで、コクピットの計器類も液晶画面のデジタル表示となるなど格段の進化を遂げています。ソマリアでは哨戒のほか、SOSを発信した商船の確認、海賊の画像撮影などに大忙しでした。
「さみだれ」はソマリアから戻ったばかりの艦ということで、マスコミの関心も高く、新聞社が2社取材に来ていました。
若い記者が取材している様子は、かつての自分を見ているようでしたが、いかんせん質問のレベルが低すぎ!もっと海自について勉強してから取材しましょうね!

取材に対応しているのは飛行長を兼務している副長です。
護衛艦などの副長は、艦長を除いた最先任の幹部が就くのですが、砲雷長や船務長とならんで飛行長の副長もかなりの数いるようです。(もちろんヘリのパイロットです)
爽やかな秋空の下で美しく輝く「さみだれ」ですが、艦内に残る痕跡や乗組員の生々しい証言から、ソマリアの空気がいまだ色濃く残っていることを感じました。
証言の中にはニュースでは伝えられていない事実や、極限状態に置かれた者のみが感じる心理や苦悩があり、改めてソマリアでの海賊対策任務について考えさせられました。

と同時に、テレビや新聞が伝えない事実や、乗組員の苦悩・葛藤を伝えることが私のHPの使命なのだと感じました。

日本から遠く離れたアデン湾で、過酷な任務を全力で遂行した「さみだれ」乗組員に敬礼!