伊勢湾マリンフェスタ‘10〜一般公開編


8月21、22日の二日間にわたって開催された伊勢湾マリンフェスタ‘10の模様を3回に渡ってレポートします。
第1回目は「くりはま」「はしだて」という超マニアックな艦艇が公開された四日市港での艦艇公開の模様です。

九州から四日市まではるばる遠征した「伊勢湾マリンフェスタ」。
お目当ては、8隻もの艦艇が伊勢湾で展示を行う体験航海もさることながら、超マニアックな3隻の艦艇を撮影することでした。

その超マニアックな艦艇とは、「くりはま」「はしだて」「輸送艇2号」の3隻。まさにマニア垂涎のフネたちです。
0900の公開開始と同時にこの3隻に直行、大多数の人たちが向かった「ひゅうが」や「しらね」はそっちのけです(笑)

実は、今回の艦艇公開の目玉は「ひゅうが」「しらね」ではなくこの3隻で、海自によると「海上自衛隊にはこんなフネもあることを知ってもらいたくて伊勢湾に持って来た」とのことでした。
ワクワクと気持ち踊るなか、まずは試験艦「くりはま」に乗艦。

「くりはま」は開発隊群の直轄艦で、新たに開発された対潜兵器や機雷戦兵器を海上試験することを目的とした艦です。
自衛隊の様々な装備品を開発している技術研究本部の予算で建造され、今年で艦齢が30年に達した超ベテラン艦です。

今後数年以内に退役する見込みなので、これが最初で最後の見学になるかも知れません。「悔いを残さぬよう存分に撮影するぞ!」と意気込みながら乗艦しました。
ちなみに「くりはま」は艦の性格上、公開されることは滅多になく、30年に及ぶ人生の中でも今回が3回目の公開とのことでした。
乗艦後、真っ先に艦橋へ。
艦齢が30年を超える古い艦なので、航海用機器やレーダーといった装備品も当然古いものばかりなのですが、艦橋内は最新鋭艦に負けないくらい綺麗でした。

天井は新鋭艦と同様黒に塗装され、壁面や装備品も美しく塗装されていました。艦齢30年の艦とはとても思えない雰囲気で、乗組員の手入れが行き届いているのだなと感じました。

しかしながら、小型艦なので艦橋のスペースは狭く、加えて試験艦特有の珍しい装置が多数あるため、撮影するのに動き回るのも苦労するほどの窮屈さでした。
試験艦特有の珍しい装備がこれ。
機関に前進・後進や速力の指示を送る指示器ですが、普通の艦の約3倍大きさで、スイッチとメーターが恐ろしく沢山あります。

これは「くりはま」が試験用に複数の動力方式を備えているためです。通常はディーゼル推進ですが、試験時には低速で航行し、なおかつ艦から出る雑音を抑えるために電気推進に切り替えます。さらに艦首にも補助推進器を備えています。
指示器が大型なのはこのためで、奥が主機(ディーゼル)用、中央部が電気推進用、手前が艦首推進器用となっています。

このように「くりはま」は静粛性と低速航行能力が重視されており、最微速1ノットでの航行が可能です。
さらにこんな不思議な装置もあります。
かなり大型の装置で「自動操艦装置」との表示がありました。
試験時に自動操艦するための装置なのでしょうか?

モニターやジョイスティックがあったり、自動操艦装置にしては図体が大きいことから、機雷処分具といった試験中の装備品を遠隔操作するための装置なのかも知れません。(この機器については最後まで何なのか分かりませんでした。案内役の隊員さんに聞けばよかった…)

この画像と上下の画像から、艦橋の床面は鮮やかな青色であることがお分かりになると思いますが、これは歩行による雑音の発生を抑えるためのマットが敷かれているためです。
艦長席です。
心ときめく赤青二色のセパレートカラーです♪
「くりはま」は小型艦ということで、艦長は三佐が務めることが多いのですが、現在の艦長は二佐の方が務めています。

試験艦という特殊な用途の艦なので、艦長には技術畑や研究畑の幹部が就くと思われがちですが、実際は護衛艦といった通常の艦に勤務していた幹部が就きます。ただ試験航行には細かな操艦が要求されるので、操艦が上手な人材が求められるのではないかと考えられます。

ちなみに席の前のテーブルにある制帽は、艦長が置き忘れている訳ではなく、記念撮影用のものです(笑)
艦橋の撮影を終えて艦内に降りて行ったのですが、何と!士官室が公開されていました
しかも入口から覗くだけでなく、自由に中に入って見学し放題。私は思わず一番奥の艦長の席に座って、幹部の方に記念撮影をしてもらいました♪

この士官室を使用するのは、艦長運用長兼副長航海長機関長船務長兼補給長運用士機関士の7人の幹部です。
幹部の数が少ないので部屋自体もあまり広くはないのですが、そこは士官室だけあって艦内の他の部屋とは別世界。小奇麗で格式高い雰囲気に満ちています。
このテーブルの向かい側には、応接用のスペースがあります。
こちらは曹士の憩いの場、科員食堂です。
幹部を除く乗組員は30人程度しかいないので、この科員食堂もあまり広くはありません。テーブルが4つ置かれており、一度に16人が食事をすることができます。

テレビや飲料の自販機、アイスクリームが入った冷蔵庫があったりと、ここも艦内の他の部屋とは別世界。試験航行や訓練の合間に一息つくことができるまさにオアシスです

私は科員食堂のゆる〜い雰囲気が大好きで、撮影の合間に科員食堂でジュースを飲みながら休憩するひとときが最高に幸せを感じます(笑)
試験する装備品の計測室です。
試験装備品を搭載する試験作業甲板に面した位置にあり、試験時にはこの部屋に計測用の機器を設置し、試験員が装備品の試験データを収集します。
現在は試験する装備品を搭載していないため、計測室もご覧のようにガランとしています。

「くりはま」には最大12人の試験員が乗艦できるようになっており、この部屋に隣接して試験員用の会議室や居住施設も設けられています。
計測室に立っている乗組員は「くりはま」の先任伍長さんで、この部屋の説明をしてくれました。ご苦労様です!
艦の後部甲板は試験作業甲板です。
試験を行う装備品を運搬するためのデッキクレーンが備え付けられています。
この場所に試験を実施する装備品を直に設置するため、「くりはま」は時期によって後部甲板の艦容が微妙に異なります

第一線で使用されている機雷戦兵器を産み出してきた「くりはま」ですが、就役から30年が経ち退役が近づいているものの、国家財政の逼迫により代艦の建造は厳しいとの見方が有力です。
このようなユニークな艦が姿を消してしまうのは、マニアとしては本当に寂しいです…。
次はいよいよ「はしだて」に乗艦します。

「はしだて」は特務艇というなにやら謎めいた艦種ですが、平たく言えば迎賓艇です。
海自の迎賓艇としては4代目にあたり、前の3代が他艦種からの改造だったのに対し、「はしだて」は最初から迎賓艇として設計されたフネです。
内外の賓客が出席してのレセプションや式典、洋上会議で使用することを目的とした艇で、VIPを迎えるにふさわしい贅を尽くした部屋や施設を備えています。

最も乗艦したかったフネなので、「くりはま」の見学で踊りまくっていた私の心は、ここで阿波踊り状態となりました(笑)
「はしだて」の上甲板。艇後方から艦首方向を望んだところ。
迎賓艇ですので当然と言えば当然なのですが、護衛艦とはまったく雰囲気が違います

上甲板レベルには、洋上会議や会食で使用する会議室賓客の休憩室ロビー兼バーカウンターなどが配置されています。

「はしだて」は1999年に就役しましたが、就役直後には口の悪い週刊誌から「官官接待船」などと書き立てられました。
しかしながら、海自(=海軍)は単なる武装集団ではなく制服を着た外交官の集団でもあるので、「はしだて」のような他国海軍の高官を接遇する船は必要不可欠なのです。
上甲板から艇内に入ってすぐの場所は艦の玄関にあたる場所で、護衛艦では艦名を記した表札や歴代艦長の名前が刻まれたプレートなどが飾られていますが、「はしだて」ではご覧のようなとても素敵な「はしだて」のイラストが飾られていました。

あまりにも素敵なイラストなので、近くにいた案内役の隊員さんに「これ艇内で売ってませんか?」と思わず聞いてしまった程です。

隣には就役10年を記念しての集合写真、下には海自内の献立コンテストで最優秀を獲得したとのプレートが飾られています。
VIPにお料理を出すフネですもの、献立コンテストに出ようものならぶっちぎりで最優秀ですわな…(笑)
艦橋につながる階段です。そう、梯子ではなく階段なのです!
しかも幅が広くて傾斜も緩やか。とても昇りやすいです。

床の色は海を思わせるブルー、壁面や手すりの色は白で、ますますもって護衛艦とは雰囲気が大きく異なります。なんだか豪華客船に乗っているような気がしてきました。
また艇内には掃海艇のように至る所に木材が使用されており、それが艇内を豪華かつ暖かな雰囲気にしています。

「はしだて」は極めて異色なフネではありますがれっきとした自衛艦(=軍艦)で、世界的権威を持つ艦艇図鑑「ジェーン年鑑」にもちゃんと載っています
「はしだて」の艦橋です。
足を踏み入れた瞬間「何じゃ、こりゃ〜!」と思わず叫んでしまいました。おおよそ自衛艦の艦橋とは思えぬこの光景、艦橋・ブリッジと言うよりはコクピットと言った方がいい雰囲気です。

ジャイロコンパスや速力指示器、海図台など、艦艇で見慣れた航海用機器はどこにも見当たりません。代わりにあるのは摩訶不思議な数々のディスプレイとスイッチたち。
これは統合艦橋システム(IBS)という形態で、ジャイロやGPS、電子海図、操舵装置等の航海用機器を集約・統合、さらに艇内のすべての情報を一元管理することで、省人力による航行さらにはワンマンコントロールをも可能としたシステムなのです。
操舵輪はハンドルのような形状、まさに運転席といった佇まいです。シートは革張りで、操舵手が立ったままの他の艦とはこれまた大違いです。
ちょうど艦橋の中央部にあたり、通常の艦であればジャイロコンパスが置かれ航海指揮官が立っている位置です。
操舵輪がこの位置にあるということは航海指揮官はどこに立つのでしょうね?もしかして航海指揮官自らが操舵輪を握ってこの席に座るのでしょうか?

統合艦橋システムを導入しているフネは、海自では「はしだて」のみですが、ヨーロッパ諸国の海軍では省人化を目的に戦闘艦艇に導入されています。
この装置はエンジンコンソール、つまり機関を制御・監視する装置です。通常の艦の機関室(操縦室)にある監視パネルをぎゅっと小さくしたものです。
恐らく機関長は機関室ではなく、艦橋のこのコンソールの前で機関の制御と監視をするのでしょう。
コンソール上には「操作厳禁」の表示が。見学者に対し「手を触れないで下さい」ではなく「操作厳禁」と注意喚起するあたりは「触ると艇が本当に動き出すぞぉ!」と言われているようでした。

そういえば、以前乗船した海上保安庁の巡視艇もハンドルのような操舵輪が中央にあり、機関長がブリッジで機関を制御していました。もしかしたら巡視艇も統合艦橋システムを導入しているのかも知れません。
こちらはブリッジモニター(左)と電子海図装置です。

ブリッジモニターには速力、艦首方位、主軸回転数、舵角など航行時における艇の様々な情報が表示され、手前にあるスイッチを押すだけで速力を調整できるようになっています。
電子海図装置はその名の通りモニターに海図を表示するものです。隣には紙の海図を置くための海図台もあります。

ワンマンコントロール時には操舵手(運転手?)が操舵装置とブリッジモニター、電子海図装置を使って操艦を行うと考えられます。自動車に例えるとハンドルシフトレバーカーナビと言ったところでしょうか(笑)
艦橋でさらに度肝を抜かれたのがこの艇長席
何と!艦橋後方の壁に貼り付けられたような形で設置されています。艦橋前面はIBSのコンソールが所狭しと並んでいるので、さすがの艇長席も置く場所がなっかたのでしょうね。
艦長(艇長)席は艦橋右舷前面にあるという固定観念(というか、それが普通)を持っていたので、この席を見た時には後ろから頭を殴られたような衝撃を受けました(笑)

「はしだて」は小型の自衛艦ということで、艇長は三佐の幹部が務めています。こんなユニークなフネの艇長になるのも、貴重な勤務経験ですね。
VIPや諸外国海軍の高官を乗せて航行している時は絶対に事故は起こせないので、神経をすり減らす激務なのかもしれません。
艦橋を出て梯子を昇り艦橋露天部へ。

護衛艦なら各種通信機器や電子戦兵器などが設置されている場所ですが、「はしだて」はご覧のような展望デッキとなっています。
床面は板張りで、とても素敵なベンチテーブルが備え付けられています。

海上クルーズ中にこのベンチに座って冷えたビールを飲むとどんなに気持ちがいいことでしょう…そんな想像に駆られました。
いつの日かBIGな男になって「はしだて」での洋上レセプションに呼んでもらうぞ!―この場所でそう心に誓った私でした(笑)
果たしてそんな日は来るのでしょうか…。
艦橋露天部から階段を降りると、そこはプロムナード・デッキです。「はしだて」のメイン施設のひとつです。

洋上レセプションで使用され、立食形式ならば130人程度のゲストを収容することができます。
ここも床面は板張りで、天井は画像のようにオーニングテントを開ければ空を眺めることができる開放感溢れるデッキです。「はしだて」が迎賓艇であることを実感する場所でもあります。

このプロムナード・デッキ、実は他の部屋と同様にVIPの接遇以外に極めて重要な別の用途も有しています。その用途とは…とりあえずここでは秘密に。4枚下の画像説明で明らかにしますね。
プロムナード・デッキの艦首寄りの場所にはこのような施設があります。左側の四角い窓は艇内の調理室でこしらえた料理をデッキに出すための窓と思われます。

料理はVIPをもてなす最大の“武器”なので、「はしだて」には広くて充実した調理室が備えられており、海自の中でもトップクラスの腕利き調理員が乗り組んでいます。
また出される料理もお寿司和食中華フランス料理など本格的かつ多彩なラインナップを誇ります。

右側にある入り口を入ると、奥には艇内に降りるエレベーター、手前にお手洗いがあります。
その男性用お手洗いに潜入(?)してみました。
洗面台はなんと大理石製です!!
さらに内装には高級そうな木材が使用されており、床はシックな緑色のリノリュームが敷かれています。

護衛艦のお手洗いでよく見かける「発射前にもう一歩前進」とか「ケチケチせずに海水は勢い良く流せ」といった勇壮な張り紙はここにはありません(笑)

私は思わずこの素敵なお手洗いで用を足してみたいとの衝動に駆られましたが、すぐ近くに案内役の隊員さんもいたので思いとどまりました(笑)
この豪華なお手洗いに「はしだて」の真骨頂を見た気がします。
プロムナード・デッキを艦橋上部の展望デッキから望んだ様子。

プロムナード・デッキの天井部分は、洋上レセプションが開催される場合はこのように開放されていることが多いのですが、雨天時や日差しが強い場合などは閉じられます。
白い船体と漆黒の板床面のコントラストが本当に美しいですね♪

2本の煙突が見えますが、実は艇の見栄えを良くするために2本に偽装されており、右側の煙突はダミーです。
ダミー煙突の上には通信機器のアンテナが設置されており、マスト的な役割をしています。
航行中に片方の煙突のみが煙を出している様子は笑えます。
デッキの一角に簡易型ベッドが展示されていました。
そう、このベッドこそがおもてなしと並ぶ「はしだて」のもうひとつの“兵装”なのです。

「はしだて」は災害発生時にはプロムナード・デッキとVIP休憩室に簡易型ベッドを敷き詰め、小型の病院船・医療船としての役割を担うのです。その際、会議室は災害対策本部用のスペースとして、充実した調理室は炊き出し用の施設として活用されます。

病院船としての活用を想定した自衛艦としては「ましゅう」型補給艦や「おおすみ」型輸送艦がありますが、「はしだて」はこれらの大型艦が入港不可能な離島や僻地、水深が浅い港への派遣が想定されています。
プロムナード・デッキと上甲板をつなぐ階段はご覧のような優雅な形状のらせん階段となっています。
歩いて降りるだけで、何だかとてもお上品な気持ちになりました♪

ガラス窓の内側はVIP休憩室で、さらに艦首寄りの位置に会議室があるのですが、残念ながらこれらの部屋は非公開でした。
こちらのサイトに今回公開されなかった会議室、休憩室、ロビーの画像がありますのでご覧になってください。

「はしだて」はとにかく見る物すべてが珍しく、暑さを忘れて、さらに我を忘れて撮影に没頭してしまいました。
次に公開される時には会議室や休憩室も見学したいです。おっと、BIGな男になってレセプションに呼んでもらうんだった…(笑)
こちらは輸送艇2号です。
輸送艇1号型の2番艇で、1992年に就役しました。「ゆら」型輸送艦同様、沿岸の僻地や離島への人員や車両、資材の運搬を任務としており、「ゆら」型の7割程度の大きさながらほぼ同程度の輸送力を有しています。

このスペースは車両や物資を搭載する車両甲板です。小型なので船体の幅いっぱいにスペースを広げて面積を確保しています。
「ゆら」型同様、艦橋露天部に20ミリ機銃が設置されているのにご注目!
輸送艇2号の公開はこの車両甲板のみで、艦橋や艇内は非公開でした。艦橋ぐらい見せて欲しかったなぁ…。
「くりはま」と「はしだて」は見所満載、はるばる大分から四日市まで遠征した甲斐がありました
公開を企画した横須賀地方総監部の方々に敬礼!

私と同様、午前9時の公開開始と同時にこの2隻に乗艦している人が結構いて、両艦の意外な人気ぶりに驚きました。
ただ来ている人の大半が、立派なカメラを手にしたいかにもマニアといった雰囲気の方々でした。(人の事は言えませんが…)

ちなみに、このあと「ひゅうが」「しらね」も見学したのですが、「くりはま」と「はしだて」に比べればごく普通の艦でした(笑)

特殊な任務に就く「くりはま」と「はしだて」。小さな艦だがマニアにとっては「ひゅうが」よりも存在感は大。