呉地方隊展示訓練 in 大阪湾 ~神戸出港編

展示訓練2日目(9月25日)は、神戸港第4突堤から出港するイージス艦「きりしま」に乗艦しました。

展示訓練2日目に乗艦する艦は「きりしま」です。今回の展示訓練で「きりしま」は「いかづち」と共に神戸新港から出港します。
2日目に神戸発の「きりしま」に乗艦することにしたのは、前日に乗艦した「はたかぜ」(和歌山から出港)と全く逆の位置から展示訓練を見ることができるからです。同じ内容の展示訓練でも逆の位置の艦に乗るとどのように異なって見えるのか、非常に楽しみです♪

実は、「きりしま」に乗艦したかった理由はもうひとつあります。4年前の夏と去年の秋に私の地元の艦艇イベントでお世話になった豊住一佐が、4月から「きりしま」の艦長を務めているのです。お会いして艦長就任のお祝いの言葉を伝えなければ…。

午前11時過ぎ、「きりしま」は神戸新港を出港しました。同じ岸壁には国内巡航の途中に神戸に寄港している砕氷艦「しらせ」が接岸しています。岸壁にある大きな建物は神戸ポートターミナルビルです。ビルのテラスには「きりしま」と「いかづち」の出港を見ようと、大勢の人が詰め掛けています。イージス艦と大型汎用護衛艦の出港シーンはさぞ見応えがあったことでしょうね!

神戸新港第四突堤は1922(大正11)年に完成した国内最大の客船専用埠頭です。全長が600mを越える岸壁には10万トン級の客船も接岸できるほか、5万トン級程度なら同時に4隻が接岸することができます。

出港から約40分後、試験艦「あすか」が近づいて来ました。「あすか」は多用途支援艦「げんかい」と共に、神戸市内にある阪神基地隊から出港してきました。2日前の一般公開で乗艦し、試験艦特有のユニークな装備の数々に触れてすっかり「あすか」の虜になってしまった私ですが、航行中の姿も本当に美しいと感じました♪特に鋭く尖った艦首にマニア心を激しくくすぐられました!(笑)

一般公開、訓練初日と絶好の晴天に恵まれてきましたが、この日は神戸出港時には晴れていたものの、沖合いに進むとともに上空には雲が広がってきました。曇りだといい色が出ないなぁ…。

「いかづち」は「きりしま」より先に出港していたのですが、途中で「きりしま」が「いかづち」を追い抜きました。「いかづち」はこのあと「きりしま」の後ろに続きます。「いかづち」が後続する際に発光信号を打ちはじめたので、何と信号を送って来るのかカメラの望遠レンズで眺めてみました。「き・り・し・ま・さ・ん・か・っ・こ・い・い」。なんじゃ、こりゃ(笑)

「いかづち」からの発光信号の内容が艦内放送で紹介されると、艦上のあちこちで笑い声が起こっていました。ちなみに、「きりしま」は「あなたもなかなかカッコいいですよ」と信号を返していました。イベントならではの心温まるひとコマですね♪

艦隊は「きりしま」「いかづち」「あすか」「げんかい」の順で単縦陣で航行していきます。航行中、艦隊に厄介な“敵”が襲いかかります。その敵とは…プレジャーボートや漁船といった民間の小型船舶です。
まずやって来たのはプレジャーボート。高速で「いかづち」や「きりしま」のすぐ横を駆け抜けて行きました。前日の和歌山でもそうでしたが、軍艦が珍しいためか、体験航海や展示訓練では必ずと言っていいほどプレジャーボートが近づいてきます

1988年に潜水艦「なだしお」と釣り船が衝突する事故が発生しましたが、再三の警告を無視して釣り船が「なだしお」に近づいたことが事故の原因となりました。

最も危険な“敵”は漁船です。↑の画像を見て、3年前に起きた「あたご」と漁船の衝突事故を思い出す人も多いのではないでしょうか?まさに「いかづち」が間一髪で漁船を避けているのがお分かりになると思います。

大阪湾の漁船が厄介なのは、進路を変えたり速力を変えて艦隊を避けようとしないのです。むしろ、敢えて艦隊の進路に突っ込もうとしたり、艦をめがけて進んでいるように見えました。海上衝突予防法に照らせば、この場合は漁船を右側に見る「いかづち」に回避義務がありますが、だからといって小回りが利く漁船が何の回避措置を取らずに突き進んでくるというのは疑問を感じます

漁船は次から次へ襲いかかってきます。↑の画像からはいかに「いかづち」が大きく変針して漁船を避けているか、そして漁船が「いかづち」めがけて突っ込んでいる様子がよく分かると思います。仮に「いかづち」が変針していなければ衝突は間違いないような漁船の進路です。驚くべきなのは、この場合の回避義務は漁船側にある点です。漁船は進路を変えず、速力も落とさずに真っ直ぐに進み、それを「いかづち」が避けているのです。おかしいとは思いませんか!?

海自艦艇と民間船舶が衝突すると、マスコミは海自艦艇側にすべての非があるように報道しますが、こういった現実もあることを国民の皆さんはよく認識していて欲しいと思います

片道約3時間にも達する航海なので、艦上では様々なアトラクションが催されて乗艦者を楽しませてくれます。
「きりしま」では制服ファッションショーが開催されました。10人の乗組員が各種制服や作業服を着用して登場、しかもファッションモデル並みのウォークとポーズをキメるという熱の入れようです。モデルの隊員が登場するたびに、「カッコイイ!」という歓声やユニークなしぐさに対する笑い声が甲板上に溢れました。

左側にいる幹部が司会進行役を務めたのですが、しゃべりが抜群に面白い!自衛官にしておくのがもったいない(?)ほどの巧みな話術でした。ちなみにこの幹部は副長の佐藤二佐です(笑)

ショーの終わりに全出演者が勢ぞろい、見学者から大きな拍手が寄せられていました。
私が感じたところでは、最も「カッコイイ!」との声があがったのは幹部の第一種夏服と戦闘服(作業服)で、一番笑いが沸き起こったのは消火服でした。消火服のモデル(隊員)は機関士Aだったのですが、ホースで火を消すジャスチャーがとてもコミカルでした♪また、潜水士も副長の「一瞬で潜水具を着用せよ」との無茶振りに懸命に応える様子が笑いと歓声を集めていました。

ショーの終了後は記念撮影タイムとなり、モデルの皆さんは大勢の乗艦者に囲まれて記念写真に収まっていました。ちなみに、巧みな話術で笑いをとった副長も記念撮影を求められたり、艦内のあちこちで声をかけられるなど大人気でした。

出港から約2時間半後、大阪・天保山埠頭から出港してきた「いせ」「せとゆき」「とね」が接近してきました。「いせ」が現れると「きりしま」艦上のマニアの方々は左舷側に大集合、皆さん一斉に「いせ」にカメラを向けてその姿を写真に収めていました。おぉ!「いせ」大人気だ!!「いせ」がぐんぐんと近づいてくる絶好のアングルなのですが、曇天でまったく色が出ないのが残念…。

今回の展示訓練は「いせ」にとっては初めて参加するイベント、言い換えれば国民へのお披露目の場です。私には「いせ」が「姉(ひゅうが)だけでなく私の事もよろしくね!」と言っているように見えました(笑)

時刻は午後1時50分、神戸から出港してきた艦の隊列に大阪出港組の艦が合流します。7月の舞鶴地方隊展示訓練の際もそうでしたが、艦隊の合流シーンも見所のひとつです。その意味では、もう既にこの時点から訓練展示は始まっていると言えるでしょう。

背後に見える陸地は淡路島です。展示訓練が陸地からかなり近い場所で実施されるのがお分かりになると思います。
「きりしま」艦上にいた頭の悪そうな 女の子が淡路島を指差しながら「ちょー淡路島~!」と連呼していました。とても乱暴な日本語ですねぇ…(笑) どうやら「淡路島が近くによく見える」という意味のようです(苦笑)

合流が完了!!「いせ」を先頭に「きりしま」「いかづち」「せとゆき」「とね」「あすか」「げんかい」という隊列になりました。
時刻は午後2時ちょうど。いよいよ訓練展示が始まります。今ごろは和歌山を出港した「はたかぜ」「てんりゅう」も淡路島出港組と合流し、一列となって我が艦隊に向かって来ていることでしょう。前日に「はたかぜ」から見た大艦隊の中に今日私はいるのです。

大型艦を含む5隻もの艦艇が一直線になって航行する光景は勇壮かつ優雅、そんな光景を目の当たりにして「ちょー淡路島!」ならぬ「ちょー護衛艦!」と叫びたくなりました(笑) 艦隊が一列になって航行する光景は何度見てもいいものです♪

和歌山・淡路島組の先頭は訓練支援艦「てんりゅう」です。護衛艦の対空射撃訓練を支援する特殊な用途の艦ですが、特徴的なマストをはじめとする特異な艦容がよく分かります。後甲板に見える赤色の物体は標的機ファイヤー・ビー改です。標的機の胴体には、「ガンバロー日本」「よみがえれ あの海あの空あの大地」といった震災の被災地に向けた激励のメッセージが記されています。

海自の訓練支援艦はもう一隻、「くろべ」があります。「てんりゅう」は「くろべ」の拡大改良型ですが外観はそっくりで、呉基地に並んで停泊している姿は仲の良い姉妹のように見えます。「くろべ」と「てんりゅう」の2隻で第1海上訓練支援隊を編成しています。

続いては2隻の掃海艇がやって来ました。
そのうちの一隻、艦番号677のこの艇は掃海艇「まきしま」です。「うわじま」型掃海艇の6番艇で、阪神基地隊に所在する第42掃海隊に所属しています。この艇にとって大阪湾はまさに本拠地、言わば「自分の庭」みたいな海域です。

正直、あまり注目されない掃海部隊・掃海艇ですが、このような展示訓練に参加してその存在価値を再認識してもらうのはとてもいいことだと思います。掃海艇が何隻も参加するのは呉地方隊の展示訓練ならではですね!
掃海艇の名前は島から採用されていることもあり、多くの島が浮かぶ瀬戸内の海に掃海艇はよく似合います♪

輸送艦「ゆら」です。愛嬌たっぷりの可愛らしい艦です。基準排水量は590tで、海自では最小の「艦」です。
離島や沿岸僻地への人員・物資輸送を任務とする艦で、舞鶴に同型艦の「のと」がいます。艦齢が30年を超えて老朽化も進んでいるため、今後数年以内に退役する可能性もあります。しかし、国家財政が厳しいからか、代艦の建造についてまだアナウンスがありません。ビーチングが可能な小型輸送艦は地方隊には絶対に必要だと思うのですが…。

数年前、私の地元で行われた艦艇イベントに呉から防舷材を積んでやって来ました。本来の輸送任務に加え、地方の港に艦艇が入港するのに必要な物資の輸送も担当しています。

潜水艦「くろしお」です。「おやしお」型潜水艦の7番艦で、海自潜水艦史上最も伝統と栄誉ある艦名を背負っています。
新防衛大綱で潜水艦が現在の16隻(練習潜水艦を除く)から22隻に増強することが明記されましたが、増強は年間の潜水艦の建造を増やすのではなく、この「おやしお」型を延命することで達成することになっています。よって、この「おやしお」型は今後しばらくの間も海自潜水艦の中核の担うことになります。

「そうりゅう」型の登場により一世代前の潜水艦となりましたが、「そうりゅう」型よりも艦内スペースに余裕があることから、乗組員の間では「おやしお」型の方が人気があるということです。

和歌山・淡路島艦隊の最後は「はたかぜ」です。そうです、私が前日に乗艦した艦です。垂直にそそり立つ構造物、複雑かつ巨大なラティスマストなど非ステルスなデザインが古風さを感じさせますが、それがこの艦の魅力とも言えます。私が高校生だった頃は画期的な最新鋭艦だったんですけどねぇ…。

空砲射撃を実施するため51番砲と52番砲はすでに左舷方向を向いています。52番砲に仰角がかかっていることから、間もなく52番砲の射撃が始まるようです。前日とはまったく逆の位置から見る空砲射撃、どんなふうに見えるのか非常に楽しみです。

「52番砲発射よ~い。てぇー!!」
砲雷長の号令一下、砲が白煙を噴きました。「ズババーン!」と大阪湾に轟く砲撃音。後甲板にいる乗艦者は手で耳を塞いで必死に耐えている様子です。前日、あの砲のすぐそばで耳栓もせずに撮影に没頭していた自分を改めて恐ろしく感じました…(苦笑)

空砲とはいえ艦砲射撃なんて滅多に見られるものではないので、「きりしま」艦上の見学者もその迫力に驚きながらも大喜び。「おお~!」「すげぇー!」といった声が沸き起こっていました。
「はたかぜ」は艦とすれ違うたびに空砲を発射、合計で7発の射撃を実施しました。「はたかぜ」砲雷科の皆様、お疲れ様でした。

神戸・大阪艦隊と和歌山・淡路島艦隊のすれ違いが終了。和歌山・淡路島艦隊は反転し、神戸・大阪艦隊に後続します。さらに艦隊は2列に分かれて航行、この間に飛行展示が行われました。

我が「きりしま」の隊列は、「きりしま」「せとゆき」「あすか」「げんかい」「てんりゅう」「はたかぜ」の6隻、この6隻がこれから見事な艦隊運動を展開します。↑の画像には「せとゆき」「あすか」「げんかい」「てんりゅう」の4隻が写っていますが、護衛艦試験艦多用途支援艦訓練支援艦とすべて艦種が異なります。よって、それぞれの用途に応じて艦容もまったく異なる点が非常に興味深いです。

6隻は一斉に90度変針、それまでの縦一列の隊形から横一列の隊形に変換しました。隊列は一気に12ノットまで増速、6隻は6本の矢の如く穏やかな瀬戸の海を引き裂くように突き進んでいきます。ちょうど「和歌山出港編」の21枚目の画像を逆から見たところです。

人間でさえも集団で行進しながら揃って向きを変えるのは難しいのに、それを艦艇でやってのける海自の操艦技量は本当にお見事です。まさに日ごろの訓練の賜物と言っていいでしょう。この高い技量の披露は展示であると同時に、近年日本の海を脅かしている周辺国への警告、言わば抑止力の一端であると私は考えています。

展示の最後は対潜ヘリSH60-Kによるローパス(低空飛行)です。前日にお世辞にもローパスとは言えない中途半端な高度で飛んだヘリですが、今日はしっかりと低空飛行してくれました。

3機のSH60-Kは「バリバリ」というローター音を轟かせながら、乗艦者の頭上を駆け抜けて行きました。そんな飛行を「きりしま」艦上で見ていたウイングマークを付けた幹部(二佐)が、「よし、今日はちゃんと低く飛んでるな。昨日文句を言った甲斐があった」と呟いていました。やはり昨日の飛行の後にパイロットは叱られていたんですね…(苦笑)
この文句を言った幹部ですが、二佐の飛行幹部ということは何処かの航空隊の副長もしくは飛行隊長と思われます。

帰路も約3時間の行程なので、「きりしま」艦上ではラッパ隊の演奏会信号の展示が行われました。
このうち信号の展示では、選ばれた乗艦者が発信者に名前を教え、名前を信号で送るというものです。信号は手旗信号発光信号の2種類が披露されましたが、信号を受けた隊員が乗艦者の名前を当てると大きな拍手が沸き起こっていました。

まあ、航海科の隊員なら信号の受信なんて朝飯前の事でしょうけど、一般人から見ればまるで神業。皆さん、長時間の帰路も楽しく過ごされているようでした。往路の制服ファッションショーといい「きりしま」の乗組員はサービス精神旺盛ですねぇ。素晴らしい!!

帰りの航海の途中に艦橋に上がってみました。
艦橋では艦長・航海長、それに航海科の隊員による懸命の操艦が行われていました。なにせ「自爆テロ船」のような漁船がウヨウヨしている海域です。艦に接近する船舶を確認してその動きを監視、なお艦に近づくようなら回避措置をとるのです。私たちが展示訓練や体験航海を安心して楽しめるのは、このような艦長以下操艦にあたる乗組員の努力のお陰なのです。

中央の赤い双眼鏡ストラップを架けた方が艦長の豊住一佐です。4年前は「まきなみ」艦長、昨年は2護群の首席幕僚でした。「艦長拝命おめでとうございます」と声を掛けると、「はるばる大分から来たんですかぁ!」と驚いておられました。そりゃ驚くわな…(笑)

午後5時30分、「きりしま」は神戸新港に接岸しました。
艦艇公開そして2日間の展示訓練と、3日間のイベントを存分に楽しませていただきました♪艦艇たちの力強く美しい姿を撮影できただけではなく、けろさんやKさんといった関西のマニアの方々との交流もあって本当に実りある3日間でした。2011年の艦艇イベントもこれが最後ですが、来年の夏も充実したイベントに参加できることを願いつつ神戸を後にしました。

乗艦した「きりしま」は乗組員がとても親切かつサービス精神旺盛で、本当にいい艦に乗ることができたと感じました。豊住艦長以下「きりしま」の乗組員の皆様、ありがとうございました!

初日とは異なる視点で見る展示訓練も最高!!艦艇の美しさと技量の高さを満喫した2日間でした。