練習艦隊 神戸寄港 (入港&レセプション編)

新任幹部を乗せ江田島を出航した練習艦隊は、翌々日に最初の寄港地・神戸に入港しました。
神戸港で開催された入港歓迎式典と「かしま」艦上でのレセプションの模様をお伝えいたします。

感動の嵐に全身を震わせた幹部候補生学校の卒業式から2日、いま私は神戸にいます。卒業式のあと新任幹部たちは練習艦隊各艦に乗り込み近海練習航海(飛行幹部は外洋練習航海)に旅立ったのですが、その練習艦隊を追いかけて最初の寄港地である神戸に駆け付けたのです。現在の時刻は午前7時ちょうど。練習艦隊の入港時刻は午前9時ですが、午前9時前後に3隻が入港を終えるとなると午前8時過ぎには1隻目(旗艦「かしま」)が入港してくる可能性が大であることから、この時刻から撮影ポイントに陣取っている次第です。さすがにこの時刻からは私以外のマニアの姿は見えません。そのうち大勢来ると思いますが…。

私がいるのは神戸港の第4突堤で、神戸に寄港する自衛艦のほか大型客船も利用する神戸港を代表する岸壁です。前方に見える建物はポートターミナルで、艦船マニアにとっては第4突堤に入港・接岸する艦を撮影するための絶好の撮影ポイントであると同時に、撮影で疲れた身体を休めるオアシスでもあります。第4突堤はポートターミナルや神戸大橋の歩道から、六甲・摩耶の山並み建ち並ぶビル・倉庫群を背景に艦艇を撮影できるので、私が最も気に入っている撮影スポットです。


予想通り、午前8時15分に「かしま」が入港してきました。入港を支援する民間の曳船2隻が「かしま」に近づいていきます。
朝日に照らされながら航行する「かしま」のなんと神々しいことか…他の海自艦にはない唯一無二の雰囲気を有していると言っても過言ではないでしょう。それにしても航行する船舶の多さに驚かされます。大型船から小型船、種別も貨物船から運搬船、起重機船などさまざま、さすがは神戸港です。「かしま」も相当な注意を払いながら航行しているものと思われます。

「かしま」の左舷側の錨が少し降ろされているのにご注目。神戸港のように他の船舶の航行が多い海域を航行する際には、緊急時に艦の行き脚を素早く止めるために錨をすぐに降ろせる状態にして航行するのです。いわば非常用ブレーキです。

「かしま」が第4突堤に近づいてきました。乾舷が高く、後部にオランダ坂を有する独特な艦容がよく分かります。「かしま」の排水量は4050tですが、この高い乾舷によって排水量以上の威容を感じます。遠洋練習航海で外国の港に寄港した際、現地の人々に対して存在感を示すために限られた排水量の中でも威容を感じる艦容にデザインされているのです。高い乾舷は威容だけでなく艦内容積の増大という効果のほか、艦や航海に不慣れな実習幹部が船酔いで苦しまないよう揺れを低減させる狙いもあります。

左舷中央部分には海自艦でも「かしま」にしか備えられていない将官艇が搭載されています。将官艇は主に遠洋航海時に外国の港で使用する司令官用の内火艇で、艦に高官や賓客を迎える際にも使用されます。一面ネズミ色の船体と装備品の中において白と青のツートンカラーの将官艇は非常によく目立ちます。将官艇の後方には“普通の内火艇”が搭載されているのが見えます。

曳船に押されて「かしま」が向きを変えます。この接岸のために向きを変えるシーンが、第4突堤における艦艇撮影の最大のシャッターチャンスです。「かしま」が向きを変えたことによってそれまで見えなかった右舷側の甲板が見えるようになったのですが、そこには2日前に幹部候補生学校で見送った新任幹部たちが美しい登舷礼を形成しているではありませんか!T君、そして同期の新任幹部の皆様、またお会いできましたね!!よく見ると艦首部分では登舷礼が行われていませんが、これは接岸のための舫作業の支障にならないようにするためと、舫が跳ねた際に舫に当たってケガをするのを防ぐためです。

新任幹部は練習艦隊に乗り組み後は実習幹部と呼ばれます。文字通り実習中の幹部という意味で、近海練習航海の約2ヶ月間と遠洋練習航海の約5ヶ月間、この練習艦隊で様々な配置での実習を通して海自幹部として必要な知識と技術を叩き込まれます

「かしま」の艦橋構造物横には実習幹部が三列になって整列しています。2日前の卒業式の時からつくづく感じているのですが、実習幹部たちの立ち姿の美しさは見事の一言。江田島で1年間心身ともに鍛えられると、人間はこれほどまでに端正になるのです
艦橋ウイング部では操艦する艦長とそれをサポートする乗組員の姿が見えます。その上部の露天部では練習艦隊司令官と幕僚らが入港作業を見守っています。実習幹部を乗せての最初の寄港地での接岸ということで、艦長は結構緊張しながら操艦しているのではないでしょうか?とはいえ、緊張で操艦を誤るような幹部は「かしま」の艦長には充てられないので、案外この緊張感を心地よく感じながら操艦しているのかもしれません。緊張感を楽しめるようになったら人間は最強です

艦橋構造物が前方に突き出た形状となっていますが、突き出た部分には高官や賓客を接遇する貴賓室があります。その上部にはカバーが掛けられた銃のような物がありますが、これは外国の港に入港する際に使用する礼砲です。また、艦橋構造物の随所に張られている白い幕は本艦が戦闘艦ではないことを他国艦船に示すためのものです。

「いなづま」も入港してきました。「かしま」より数は少ないものの「いなづま」でも白い幕が張られています。練習航海参加時にしか見られない貴重な姿といえるでしょう。「いなづま」の練習艦隊編入・練習航海への参加は19年に及ぶ艦歴の中で初めてとなります。ちなみに、同じ「むらさめ」型では一昨年に「はるさめ」が、2005年に「むらさめ」が練習航海に参加しています。

近海練習航海には旗艦「かしま」「やまゆき」とこの「いなづま」の3隻が参加しますが、5月下旬からの遠洋練習航海は「かしま」「いなづま」の2隻で実施します。遠洋練習航海は2002年から2016年までは「かしま」+練習艦+護衛艦という3隻編成で実施されてきましたが、艦艇の不足燃料費等の経費節減の観点から、一昨年から「かしま」+護衛艦の2隻編成となりました。ただ、2隻編成の遠洋練習航海は決して珍しい訳ではなく、過去には1970~86年、1995~2001年の期間は2隻編成での実施でした。

「いなづま」は「かしま」の左舷側に目刺しで係留されます。「かしま」では「『いなづま』が入港する。左、横付け用意!」の号令が艦内スピーカーから流れ、甲板上では運用員が「いなづま」の係留に備えて待機しています。ちなみに私、最も心が震える艦の号令は「出港用意!」ですが、2番目は「左(または右)、横付け用意!」なのです。もうすぐ艦が接近してくるという緊張感がすごくいいです

「いなづま」に乗艦している実習幹部は数が少ないということもあり、上甲板ではなく艦橋構造物の中段の甲板(チャフ甲板)に整列しています。実習幹部の各艦への振り分けは何を基準にして行われるのでしょうかねぇ?成績順という説もありますが、それではあまりにも露骨すぎて実習幹部の意欲を損ないかねないので、私はそれは違うと考えます。ちなみにT君は「かしま」に乗っています

「いなづま」は無事に「かしま」に横付けしました。基準排水量は「いなづま」の方が「かしま」より500t大きいのですが、高い乾舷と横幅の広い船体によって「かしま」の方が大きな艦のような印象を受けます。これが先に述べた諸外国を巡る練習艦隊旗艦として「威容」を重視した設計の効果なのです。逆に「いなづま」は戦闘艦(駆逐艦)らしい軽快かつ機能的な艦容であることが分かります。

摩耶の山並み林立するビル臨海部に立ち並ぶ倉庫群を背景に2隻の自衛艦が接岸する素晴らしい光景です。私はこの場所から撮影する護衛艦の画が最も気に入っています。江田島から大分に帰宅せずに神戸へ転戦した甲斐がありました。とはいえ、ここで撮影するのは随分久しぶりで、前回はいつかと調べたら台風で呉地方隊の展示訓練が中止となった2014年8月以来でした。あの時は台風接近に伴う暴風雨の中で「てるづき」の電灯艦飾を撮影したのですが、今となっては良き思い出です。

最後に入港してきたのは「やまゆき」です。艦齢が34年に達し今年度末で退役予定の「やまゆき」ですが、練習航海に参加するのは1991年以来28年ぶりとなります。その年の遠洋練習航海では、旗艦「かとり」「はつゆき」と共に世界一周を巡りました。今回「やまゆき」は近海練習航海のみの参加なので、生涯において遠洋練習航海への参加は1991年の1度のみということになります。対照的に呉で「やまゆき」と長年の「相棒」だった「まつゆき」は、1986年を皮切りに4度も遠洋練習航海に参加しています。

「やまゆき」の後方に巡視艇がいますねぇ。神戸海上保安部の巡視艇「はるなみ」です。練習艦隊の入港に際して航路警戒を行っていたのでしょう。艦隊の安全確保のため早朝からの警戒、ご苦労様です。「はるなみ」は「はやなみ」型巡視艇の8番艇で、1996年3月に就役、就役以来一貫して神戸港内の警戒や指導、違反船取締りの任務に就いています。

「やまゆき」は目刺しではなく、「かしま」の後方に単艦で接岸します。曳船が「やまゆき」の向きを変え、岸壁に向かって船体を押し続けます。露天艦橋に「やまゆき」に乗艦した実習幹部が整列しているのが見えます。意外と多いな…。
曳船に船体の左舷側を押されているので、艦が右に傾いています。自分の目で見ている時は傾いているようには感じませんが、こうして画像に収めると結構傾いていることが分かります。曳船の力持ちぶりにも驚かされます。まさに縁の下の力持ちですね。

朝日に照らされる「やまゆき」ですが、朝日が反射するほど美しく整備されています。とても艦齢34年の現役最古艦には見えません。今回の練習航海参加にあたって徹底的に整備されたのでしょうけど、古い艦でも整備で美しさを保ち、間もなく退役を迎える艦でも艦旗を降ろす瞬間まで美化を徹底するのは海自の伝統でもあります。艦齢34年か…就役当時私は高校2年生(17歳)、光陰矢の如し。

3隻の入港作業が終了し、190人の実習幹部が岸壁に整列しました。これから入港歓迎式典が行われます。
文句のつけようがないほどの美しい整列です。見ているだけで心が洗われます。まさに日本男児・大和撫子、かくあるべしです。
この中から未来の海幕長や艦隊司令官が誕生すると想像するだけで心が躍ります。ただし、その頃(約30年後)には私は80歳を超えているので生きているかどうか怪しいですが…
(笑)。卒業式での海幕長の訓示ではないですが、その時代の我が国の海上防衛がどうなっているかは皆目見当がつきません。もしかしたら今では想像がつかないような安全保障環境になっている可能性もあります。

今から30年前、私は大学3年生でちょうど時代が昭和から平成に変わった頃でしたが、あれほど強大な社会主義国家・ソ連が崩壊するなんて思ってもみませんでしたし、自衛隊が社会にこれほどまで認知され、海自においても空母艦型のDDHやイージス艦、4000tを超える汎用護衛艦が整備されるとは想像もつきませんでした。30年間という歳月はそれほどまで大きな変革をもたらすのです。

「ヒィーーホーーーーヒィーーー♪」。入港歓迎式典の準備が整ったところで、サイドパイプの音に合わせて練習艦隊司令官が「かしま」から降りてきました。海自では将官・1佐以上の指揮官が艦を乗り降りする際にサイドパイプが吹かれますが、例外的に2佐でも艦長就任または退任の乗退艦時にはサイドパイプが吹かれます。この起源ですが、帆船時代に酔っぱらって船に戻った船長を籠に乗せて甲板まで引っ張り上げる際にパイプの音に合わせて力を入れて引いた名残と言われています。

ラッタルの手すりにご注目!戦闘艦では見られない木製の手すりになっています。「かしま」には諸外国の高官やVIPが乗艦するので、それらの人たちも利用するラッタルは高級仕上げになっているのです。このような細かな点にも戦闘艦との違いが見て取れます。

歓迎式典では初めに関西水交会の役員が挨拶に立ち、実習幹部に対し激励の言葉が贈られました。この役員さんは宮崎行隆さんという方で海自OB、しかも元海将補です。第3護衛隊群司令幹部候補生学校長という要職を歴任、梶元司令官や各艦の艦長がやや緊張した表情なのはかつて宮崎さんの部下として勤務した経験があるからなのかもしれません。

こういう式典で挨拶に立つ人は場の雰囲気に酔ってしまうのか、やたらと長ったらしい挨拶をするのですが、宮崎さんはさすがに元海将補だけあって伝えたいことを話してピシャリと終了しました。迅速・簡潔を良しとする海自イズムは退官後も健在のようです。
挨拶の内容ですが「実習幹部は今後も修練に励め」みたいな事を言っていたような…。
スミマセン、忘れてしまいました。

司令官、各艦の艦長、実習幹部の代表に花束が贈られます。プレゼンターは今や神戸地区の自衛隊行事に欠かせない存在となった神戸のご当地アイドル・コウベリーズのお嬢さんたちです。花束を受け取る司令官や艦長はとても嬉しそうな表情、先ほど宮崎さんの挨拶を聞いている時の緊張感みなぎる表情とは大違いです(笑)

おや?テレビ局が取材に来ているぞ。地元のサンテレビかと思ったのですが、カメラのロゴを見たらABCテレビでした。練習艦隊の寄港をニュースで取り上げてもらえることは喜ばしいのですが、「安倍政権下で任務が拡大する海上自衛隊の新任幹部」とか「拡大する任務に不安を抱く海自新任幹部たち」みたいなテイストでニュースにするのではないでしょうねぇ…疑心暗鬼が拭えません。

練習艦隊司令官・梶元将補が挨拶します。司令官は実習幹部の大半が阪神・淡路大震災が発生した年に生まれたことを前置きしたうえで「実習幹部たちの人生は神戸が歩んだ復興の歴史そのものです。神戸で多くのことを学ばせたい」と述べられました。ご当地・神戸と実習幹部を関連付けた挨拶はお見事ですが、一方でつい最近の出来事のように思える阪神・淡路大震災から20有余年もの年月が経っているという事実が空恐ろしくなりました。どうりで歳をとるはずだ…(苦笑)

ベタ金の海将補の階級章が眩しい!1佐の金線4本も威厳を感じますが、将官のベタ金は迫力が段違いです。この階級章を袖に纏っている気分ってどんな感じなのでしょうか?定期的に制服のデザインが変わる陸自とは異なり、海自の制服は帽章のデザインが変わったことを除いて創設時からほぼ変わっていません。ただ細かい点では変更が行われており、将官の階級章の太い線(ベタ金)は以前はもう少し幅が狭かったのですが、十数年前に現在の幅にまで拡幅されています。

歓迎式典が終了、花束贈呈のプレゼンターを務めたコウベリーズのお嬢さんたちが「かしま」を背景にして記念撮影をしています。そして、その傍らには1佐の幹部が…もうお分かりですね、阪神基地隊司令・深谷1佐です。
深谷司令は阪神基地隊でのイベントに積極的にコウベリーズを起用することでアイドルオタク ファンたちを根こそぎ海自ファンとして取り込むことに成功するなど、他の部隊指揮官にはないユニークな手法で阪神基地隊と海自をPRしています。このような柔軟な発想や企画力は一般大卒の幹部ならではだと思いますし、同じ大学の後輩として誇らしく思います。幹候校で毎年、防大卒の幹部とほぼ同じ数の一般大卒の幹部が養成されるのも、このような柔軟な発想やユニークな企画力を期待されているからだと私は考えます。

艦艇を背景に記念撮影ということでお嬢さんたちは敬礼のポーズをとっていますが…皆さん敬礼の形が微妙なのはお愛嬌といったところでしょうか…
(笑) 流石というか、当然というか、深谷司令の敬礼は文句の付けようがないくらい美しいです。
式典終了後、私はこの日就役する潜水艦「しょうりゅう」の撮影に向かったのですが、その模様は次回のレポートにてお伝えします。

翌日の夕方、私は再び練習艦隊が停泊している第4突堤を訪れました。これから私、「かしま」艦上で開催されるレセプションに出席するのです。今から約8年前、この第4突堤に停泊している砕氷艦「しらせ」の艦上で開催されているレセプションをいま立っている場所から眺め、「いつかレセプションに招待されるような身になりたい」と思ったのですが、苦節8年、ついにその夢が実現するのです

レセプションは「かしま」の後甲板にて開催されます。後甲板はレセプション会場のほか、ヘリコプターの離着艦スペースや乗組員・実習幹部の体育スペースなど多目的に使用されます。寒さ対策のためか、レセプション会場には天幕が張られています。そして天幕の周囲には紅白幕…否がおうにも気分が高揚します。目刺しで停泊している「いなづま」のヘリ甲板にも天幕と紅白幕が設置されています。どうやら「かしま」のみでは出席者を収容できないので「いなづま」のへり甲板もレセプション会場となるようです。

「かしま」では様々な場所で乗組員や実習幹部がレセプション出席者をお迎えします。ラッタルの前では候補生と海士が、舷門では艦長と副長らが、そしてレセプション会場にほど近い上甲板では当直の研修を受ける実習幹部が出席者を出迎えていました。私は出迎えの乗組員と実習幹部ほぼ全員に対して「こんにちは!」「お邪魔します!」「よろしくお願いします!」と声を掛けたのですが、大半の出席者は緊張しているのか、はたまたレセプションの料理が気になって仕方がないのか、ほぼ素通りする有様。出席者の皆さん、乗組員や実習幹部がわざわざお出迎えしてくれているのですから、声をお掛けになってみてはいかがですか

もうひとつ気になることが…。レセプションという社交の場に出席するにも関わらず、↑の画像に写っている人のようなジャンパー+ジーンズ姿+部隊帽というイベントに駆け付けたマニアのような服装で来場している人が、僅かな数とはいえ存在するのです。招待状に「平服」と記されていたとしても、このようなTPOをわきまえない格好には眉を顰めざるを得ません。そもそもなぜこのような人が招待されているのかが謎です。レセプションは一般公開とは違います。それなりの身なりで出席するのが最低限のマナーだと思います。

実習員講堂が上着や荷物を預けるクロークになっています。実習員講堂はご覧のような大学の教室のような雰囲気、約200人を収容することができます。この光景だけを見れば、ここが艦の内部であるとは思えないぐらいです。実習幹部はここで授業や試験を受けるほか、外部から招聘した講師による講話を聴いたりします。ある意味、練習艦である「かしま」を象徴する施設といえるでしょう。
壁にはどなたかによる揮毫のほか、帝国海軍の練習巡洋艦「鹿島」の写真や絵が飾られています。実習員講堂に「鹿島」の写真や絵を飾っていることに、海自は帝国海軍の末裔であることを実習幹部に浸透させたいとの司令部の想いを感じます。
考え過ぎ…?

「しまゆき」「やまゆき」「せとゆき」といった護衛艦から種別変更された練習艦の艦内にはこのような講堂はなく、ヘリ格納庫にプレハブの講堂を仮設して対応しています。練習艦時代の「あさぎり」「やまぎり」も格納庫に仮設講堂を備えていましたが、護衛艦への復帰時に跡形もなく撤去され、講堂のあった格納庫は本来のヘリコプターの格納に使用されています。

後甲板に続く緩やかなスロープ(通称:オランダ坂)を下ってレセプションの会場へ。会場入口には金屏風が立てられ、司令官・梶元将補「いなづま」艦長・國分2佐「やまゆき」艦長・鳥羽2佐、そして地元部隊である阪神基地隊司令・深谷1佐が招待客をお迎えしています(「かしま」艦長は舷門で出迎えをしています)。足元に敷かれた練習艦隊のマーク入り赤絨毯も素敵です♪

オランダ坂をくだるにつれて会場の中が見えてきて、くだり終わるとそこには司令官や艦長が出迎えているという期待感を煽る演出に目まいがしました。ただ、オランダ坂自体はレセプションの演出のために設けられているのではなく、長い練習航海において実習幹部や乗組員が艦上体育を行う際に、ランニングで艦を周回できるように配慮したものです。「かしま」を設計する際に当時の若手幹部から要望をヒアリングした結果、オランダ坂の導入を望む声が多数寄せられたということです。

会場では既に多くの人たちがウエルカムドリンクを口にしながら、実習幹部らと談笑しています。レセプションには実習幹部全員が参加している訳ではありません。3分の2程度が奈良の神社・仏閣をめぐる研修に出ていて、さらにT君を含む10人近くが当直の研修を受けており、京阪神地区・近畿地区の出身者を中心にした約50が招待客の接遇にあたります。

参加する実習幹部にとっては初めてのレセプション、これからの幹部自衛官人生で何度も経験するであろうレセプションのデビューの日です。恐らく、最初は招待客にどう接していいか分からないでしょうから、取材も兼ねてこちらから積極的に話しかけていこうと思います。この九州から来たマニアのお兄さんが接遇のコツを教えてあげるからね!任せなさいっ!

こちらはドリンクコーナーです。ビールにウイスキー、日本酒、ソフトドリンクなどが準備されています。飲み物を準備している方々は全員乗組員で、レセプションの雰囲気を盛り上げるためにバーテンダー風の衣装を着用しています。給養を担当する補給科の乗組員だと思われますが、レセプションという「かしま」の実戦においては、この衣装こそが戦闘服といえそうです。

応援で来ているのか、制服姿の幹部も手際よくドリンクを用意しています。袖の階級章を見ると3佐の幹部…これはすごいことですよ!3佐といえば諸外国では少佐、少佐といえば「赤い彗星」の異名を持つシャア・アズナブルの階級です。つまりシャア少佐がジオン公国軍のレセプションでドリンクを用意しているみたいなものです(笑) なかなかに貴重な光景です。
テーブルに積まれたカップの日本酒は、呉が誇る名酒「千福」です。呉を母港とする艦らしいナイスなチョイスだと思います。

会場を見回しながら撮影をしていたら、懐かしい顔に出会いました。愛嬌のある丸顔にトレードマークの口髭…元「いせ」艦長の星山さんです。おぉ、懐かしい、まさか神戸でお会いできるなんて…。8年前、「いせ」の就役式典の会場で、同じ丸顔ということで臨席者に「兄弟」とイジられた楽しい思い出が頭の中で甦り、涙が出そうになりました。星山さんは「はるな」最後の艦長を経て「いせ」の初代艦長(艤装員長)に就任、卓越したセンスで「いせ」を姉妹艦「ひゅうが」とは違ったテイストの艦に仕上げました。

数年前に佐世保警備隊司令を最後に退官し、現在は香川県にある大手造船会社で安全推進室長を務めています。「いせ」艤装の経験を買われて造船会社に再就職したのかと思いきや、本人によると「たまたま条件が合っただけ」とのこと(笑) 造船会社で充実した第二の人生を送っておられるようで、星山さんのどんな環境でも楽しみながら働く姿勢を見習いたいと切に思いました。

いよいよレセプションがスタート、初めに練習艦隊司令官・梶元将補が挨拶に立ちます。
司令官は『かしま』の料理は遠洋航海先の外国でも高い評価を受けている絶品料理であることを説明したうえで、「ごゆっくりと『かしま』の料理をご堪能ください。そして実習幹部に激励の言葉をいただけたら幸いです」と述べられました。また司令官から「かしま」「いなづま」「やまゆき」の各艦長が紹介され、これから始まる長い練習航海への激励を込めて、大きな拍手が送られていました。

司令官の後ろに飾られている風神・雷神の掛け軸が素敵です。諸外国の港で開催される艦上レセプションではこのような日本的な装飾品が好まれるのでしょう。雷神ということで、もしかしたら隣の「いなづま」から借りてきているのかもしれません。
灰色の甲板上に引かれたヘリ着艦用のマーキングが、この場所が艦艇の後甲板であることをささやかに主張しています。

「かしま」艦長・高梨1佐が乾杯の音頭をとります。これから始まる近海練習航海と遠洋練習航海において、このような形で何度も乾杯の音頭を任されるものと思われます。3日前の幹候校卒業式で海幕長や学校長、招待者ら大勢の人たちが見守る中で、近海練習航海に旅立つ「かしま」が錨のトラブルによって出航できないという予想外の事態に見舞われました。私なんてその場にいただけで凍り付きそうになったのですが、高梨艦長はそんな状況でも冷静に事態を把握し、適切な処置を講じて無事出航に漕ぎつけました

高梨艦長が想定外の事態を乗り越えた逸話はもうひとつあります。2003年に東京湾で開催された国際観艦式、通常の観艦式とは異なり停泊式で実施されたのですが、観閲艦を先導して進路と速力の基準となる先導艦「むらさめ」を操艦したのが高梨1尉(当時)でした。実はその時の高梨1尉の配置は「みょうこう」の航海長で、「むらさめ」航海長が諸事情で不在となったことから、急きょ高梨1尉が代役に充てられ、大きさも舵の効きもまったく異なる「むらさめ」を見事に操って国際観艦式を成功に導いたのです。

乾杯が終わればいよいよ食事が解禁となります。ご覧ください、この豪華なお料理を!これが噂に名高い「かしま」のレセプション用料理です。なんだか豪華すぎて目が眩みそう…。しかも、あまりに美しく緻密に成形・装飾されているので、食べるのが勿体ないとすら思えてきて、食べようという気が起きません。むしろずっと眺めていたいような気分です。ところが、そんな私の想いなどどこ吹く風、大阪のオバちゃんたちは勇猛果敢にこの美しい料理に箸を突き刺し、胃袋に流し込んでいくのでした(苦笑)

【左上】手前にあるフルーツ盛りに注目。どうしたらこんな風に果物をカットできるのでしょうか?芸術作品の域に達しています。
【右上】練習艦隊だけに豪華な船盛り。大量の刺身が盛られていて、何処から手を付けていいか分からないほどのボリューム。
【左下】おつまみも豪華。手前はクラッカーに様々な具材が載っている。奥にある和菓子は食べるのを躊躇するほどの精緻な造り
【右下】可愛らしい円形に盛られたお赤飯、ひとつづつ綺麗なビニールに包まれている。荷車を思わせる容器も素敵♪

お料理が気になるところですが、この場で私が最優先しなければならないのは一人でも多くの実習幹部と会話し、激励すること
料理への未練を断ち切り、会場に散らばっている実習幹部の誰に話しかけようか物色(?)します。
あっ、クラスヘッド君ではないですか!!幹候校の卒業式で成績優秀者の表彰を受け、加えてチリ海軍士官学校勲章を授与されたHさんです。幹候校卒業式のレポでもご紹介したクラスヘッド君といきなりお会いできるなんてなんて幸運なことでしょう♪


卒業式で授与されたチリ海軍士官学校勲章の略綬が左胸に輝いているのにご注目!年月を重ねるに連れて左胸には数多くの防衛記念章が増えていくのでしょうけど、その最上段にはこの略綬がずっと輝くことになります。「勲章を貰ったので生涯一度はチリを訪問しないといけないですね」とHさん。成績が優秀なだけでなく、とても義理固い面もあるようです。素晴らしい!
Hさんは防大卒で、人の役に立ちたいとの想いから自衛隊を志したそうです。将来の目標は艦長になること。艦長どころか群司令や司令官にすらなれそうですが、本人はクラスヘッドだからといって気負ったり驕ったりする様子は皆無。今の姿勢のまま、周囲の雑音に惑わされることなく海自幹部として精進して欲しいものです。果たして4年後、彼は江田島の鬼になるのでしょうか?

他にもたくさんの実習幹部たちとお話させていただき、1年間の幹候校生活や入隊の動機、将来の目標などについて聞きました。
【画像左M川さん(右)は一般大出身。法科における我が国トップの大学を卒業していて、民間への就職なら大手企業から引く手あまただったと思われますが、侵略や災害から国民を守る自衛隊、なかでも海や船が好きだったので海自幹部を選択したそうです。
一方、HGさん(左)は防大卒。装備・経理・補給分野の幹部を志望しているそうです。後方職種への志望は珍しいと思いきや、今年は例年より志望する人が多いとのこと。後方職種の重要性が認知された結果なのか、はたまた長い航海が忌避されているのか…

【画像右】Kさん(左)、Wさん(右)はともに防大出身。防大で厳しい集団生活を経験しただけに、幹候校での生活も「防大の1学年時に比べれば楽だった」と口を揃えます。恐ろしい「鬼」がいる江田島が楽に思えるなんて、防大の1学年時って想像以上に壮絶なのですねぇ…。そんな二人ですが「鬼」には毛布やシーツを激しく飛ばされたそうです。「たぶん我々が同期で一番飛ばされたんじゃないかな?窓の外まで飛ばされました(笑)」。ちなみにKさん、見覚えのある顔だと思ったら、卒業式で家族に手を振りながら満開の笑顔で表桟橋まで行進していたあの強者候補生でした。パイロット適性があるということでパイロットを目指しているということです。

【画像左】女性実習幹部のSさん、卒業式の開始前に学生館を眺めていた私の前を駆け足で通り過ぎ、素敵な笑顔と一緒に敬礼してくれたあの女性候補生です。一般大の出身で、人の役に立つ公務員を目指して警察や消防などへの就職も考えたそうですが、最終的には自衛隊に目標を絞り、陸海空の中でも活躍の場が広そうな海自を選んだということです。鬼が荒れ狂う江田島生活については「最初はとんでもない所に来てしまったと思いました」。実習幹部の中にはあまりにも寝室の整備不備が続くため、一週間ものあいだ学生館の玄関ホールに寝起きさせられた人もいたとのエピソードを教えてくれました。あまりのトンデモ逸話に思わず笑ってしまいました。そんな厳しい鬼ですが、Sさんによると「言葉はキツイですが、随所に実はいい人だという面が顔を覗かせていました」とのこと。
Sさんの夢も艦長になること。近年は女性艦長も珍しくなくなったので、頑張ればきっとなれますよ!

画像右眼鏡が素敵な(左から)Iさん、Yさん、Mさん、まさに三兄弟と言いたくなる雰囲気ですが、なんと3人とも一般大出身、しかも同じ大学ということで驚きました。3人とも鬼の苛烈な指導ぶりが一番の思い出とのことでしたが、「最初はとても恐ろしい存在だったが、月日が経つにつれて本当は優しい人だということが分かってきた」「優しさを隠して敢えて嫌われ役を演じる熱意が伝わってきて、自分も頑張ろうという気持ちになった」とのこと。今どきの候補生って優秀というか、鬼の本質を見抜いているんですねぇ。苛烈な指導から解放されて一段落と思いきや、鬼の一人が練習艦隊の幕僚に異動して「かしま」に乗っているとのこと。心配する私に「今は優しい先輩に戻っているので怖くないですよ」と笑っていました。3人とも目標は艦長になることだそうです。

お話しさせていただいた実習幹部の皆さんは、共通して「人の役に立ちたい」というまっすぐな想いを抱いた好青年ばかりでした。
そのような想いを抱いているからこそ1年間の厳しい江田島生活を耐えることができたのではないでしょうか。近い将来、彼ら彼女らと何処ぞの艦の上でお会いできることを心から楽しみにしています。そして艦長になる日を心待ちにしています。
長生きしなければ…。

実習幹部との会話も一段落したので天幕の外を眺めると、電灯艦飾中の「やまゆき」が間近に見えます。電灯の光に照らされる「やまゆき」と背後に建つ高層ビル…神戸らしい素敵な雰囲気です。こうしてみると「やまゆき」の電灯艦飾はレセプション会場の壮大な装飾品のようにすら思えてきます。この位置・角度から電灯艦飾を眺めることができるのは、レセプション参加者の特権ですね。
電灯艦飾に合わせて艦橋内の照明は消されています。艦橋で作業を行う当直員は暗くて大変なのではないでしょうか?一方で、電灯艦飾を艦橋側から見てみたい気もします。どんな風に見えるのでしょうかねぇ?

昨日、「かしま」「いなづま」「やまゆき」の3隻が入港した直後から、作業服を着た乗組員が電灯を敷設する作業を行っていました。電灯を両舷とも艦首から艦尾まで敷設したり、マスト頂部から艦首と艦尾に向かって架設するのはかなりの重労働ではないでしょうか。なので、美しさを愛でるだけでなく、敷設作業に携わった乗組員に感謝しながら眺めたいと思います。

お腹もかなり空いたのでお料理をいただこうかと思ったのですが、先ほど撮影したメインテーブル上の絢爛豪華な料理はほぼ食べ尽くされていました。まさに〝強者どもが夢のあと状態”です。まぁ、オバちゃんらがあれほどの勢いで料理を皿に盛っていれば、無くなるのは時間の問題でしたけどね…(苦笑) 落ち込む私の鼻孔をスパイシーな香りがくすぐります。そうだ!カレーがまだある!

豪華な料理があっても「艦に乗ったからはカレーが食べたい!」と思うのか、レセプション開始直後からしばらくの間はカレーコーナーに長い列ができていました。カレーの配食担当者はその衣装からして業者さんにしか見えませんが、れっきとした「かしま」の給養員です。紫色の前掛けには葛飾北斎の浮世絵代表作として有名な「神奈川沖浪裏」と「日本国練習艦隊」の文字があしらわれた部隊マークがプリントされています。海外寄港地でのレセプションで招待客から大ウケしそうです。この前掛け、欲しいわ…。

こちらが海上自衛隊の数あるカレーの中でも特に美味しいと名高い「かしま」のカレーです。かなりスパイシーではありますが、とても上品なお味のカレーです。ある意味、豪華絢爛な料理よりもこのカレーを食べ損ねる方が残念度が高いとすら思える逸品です。
このカレーを食べて分かったのですが、呉のクレイトンベイホテルで提供されている「かしまカレー」は味が忠実に再現されているということ。本物の「かしま」のカレーとクレイトンベイホテルの「かしまカレー」は非常によく似たお味です。ただ、このカレーの味を再現するには材料費等でコスト高になるのか、「かしまカレー」は約30種類ある呉の海自カレーの中で最高値(1994円)となっています。

実は艦艇のカレーの味は数種類あって、その週のカレー担当者によって味が変わります。呉などで海自カレーとして提供されているのは、何種類かある艦のカレーの中でも代表的な味(または乗組員に最も評判のいい味)のカレーなのです。ただ、「かしま」においては、カレーは乗組員と実習幹部の金曜日の昼食であるだけでなく、お客様をおもてなしする料理でもあります。お客様に出すカレーが担当者によって味が変わるのは好ましくないので、給養員で代々引き継がれているカレーのレシピがあるのかもしれません。

レセプションも終盤に差し掛かったころ、練習艦隊司令官・梶元将補にご挨拶させていただきました。
名刺を交換する際、名刺に記されている私の名前を見て、すかさず「〇〇さんですか、いいお名前ですね」との言葉をかけていただき、グッと心を掴まれました。そのお言葉に見事なまでの人心掌握術と統率力を垣間見た気がしました。私はレセプションにお招きいただいたお礼を申し上げ、合わせてT君を立派な幹部に鍛えていただけるようお願いしました。司令官は「あっ、〇〇君(T君の本名)のお知り合いでしたか…お任せください」と返答。司令官ともなると190人の実習幹部全員の名前と顔を記憶しているようです

司令官は昨年12月に第3護衛隊群司令から異動してきました。私より3歳年上53歳防大32期生、私が尊敬申し上げる伊藤将補(現国家安全保障局審議官)と同期です。伊藤将補に勝るとも劣らないスマートさと聡明さをお持ちで、逆に己の未熟さと浅学菲才ぶりが身に沁みました。こんな素晴らしい司令官のもとで実習に励むT君とその同期たちは本当に幸せだと思います。これから始まる長い練習航海において、梶元司令官によって実習幹部たちがどのように磨かれていくのか、今から非常に楽しみです。

午後7時30分、レセプションは終了しました。あっという間の1時間30分でした。時間の経過を忘れてしまうくらい楽しかったです。
もっと実習幹部と話がしたかったし、各艦の艦長とも話がしたかったし、そしてもっとお料理を食べたかった…
(笑) 今夜のレセプションは私にとっては実習幹部から生の声を聴き、直接彼ら彼女らを激励することができてとても有意義なひとときでした。星山さんともお会いできたし…。一方、実習幹部もこれから何度も参加するであろうレセプションにデビューを飾るとともに、多くの人から激励されてこれからの練習航海に向けて決意を新たにするいい機会になったのではないでしょうか。今夜お会いした実習幹部たちと数年後に何処かの艦や部隊で再会し、今夜のレセプションを思い出話として話せる日が来ることを願ってやみません

艦隊は明後日に神戸を出港して沖縄へ、その後大湊、舞鶴、呉、横須賀へと巡航します。そして5月下旬に横須賀から約160日間の遠洋練習航海へ旅立ちます。幹候校を卒業しても今度は練習艦隊という「学校」で精進の日々が続きますが、胸に抱いた夢や目標を叶えるために頑張って欲しいと思います。辛い事もこれすべて立派な「海軍士官」になるための肥やしです。闘え、負けるな、実習幹部!

初めて出席したレセプションは実習幹部の生の声を聴く貴重な機会に。ただ、料理を食べ損ねたのは痛恨の極み…